罪人としてラスさんが監獄に送られてから、数日…-。
〇〇「何度もお話している通り、ラスさんは罪人なんかじゃありません…!」
私は連日、国王様の元を訪れて必死に彼の無罪を訴えていた。
―――――
ラス『キミといる時は、身の内で暴れ出す欲情を一生懸命抑えているんだよ。 オレの業が……キミという花を枯らしてしまうことがないように』
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(ラスさんは、決して無理強いなんかしなかった)
(ただ、心を交わし合うことを恐れていただけで……)
〇〇「国王様、どうかご慈悲を……」
国王「姫……」
懇願する私の前で、国王様が深くため息を吐く。
国王「……私を、実の息子を監獄送りにする冷酷な父親だと思うか? だが、あのままラスを野放しにしていては、いつか……」
〇〇「国王様……?」
見上げると、国王様はひどく悲しげな表情を浮かべていた。
国王「ラスから、母の話を聞いたことはあるか?」
〇〇「え……? はい、少しだけ……」
国王「ラスが幼い頃……王妃の美しさに恋焦がれ、嫉妬に狂った側近がラスは自分と王妃の間に生まれた不貞の子だと、根も葉もない噂を流したことがある。 噂は瞬く間に広がり、王妃をめぐる争いは加速し……かくいう私も……王妃を最後まで支え、信じ抜くことができなかった」
(そんなことが……)
国王「……色欲の力は、それほどまでに強い。 そして、その力を持つ者の孤独も……」
国王様は天を仰ぎ、再び深いため息を吐く。
国王「だが……貴方に触れる時、ラスはどこか優しい表情を見せていた気がする。 トロイメアの姫。ラスの心を癒せるのは、貴方だけかもしれん」
国王様はそう言うと、傍に控えていた大臣さん達へと視線を移す。
国王「……ラスを釈放せよ」
〇〇「国王様……!」
国王「姫。一国の王ではなく、一人の親としてお願いがある。 ラスを……迎えに行ってやって欲しい」
〇〇「はい……!」
私は頷いた後、数名の従者さんと共に色欲の監獄へと向かう。
…
……
そうして、監獄へと足を踏み入れた後…ー。
(暗い……それに、なんだか……)
囚人達の舐めるような好奇の目に晒されながら……
私はようやく、ラスさんが捕えられた牢までたどりついた。
〇〇「ラスさん……!」
ラス「えっ? 〇〇……!?」
私の姿を見るなり、ラスさんは目を大きく見開き……
格子を掴んだ私の手を、上からきつく握りしめた。
ラス「どうして、こんな危ない場所へ……」
〇〇「国王様にお許しをいただきました。一緒にお城へ帰りましょう?」
私の言葉に、ラスさんの瞳が悲しげに揺らめいた。
ラス「それは……できない」
〇〇「えっ? どうして……」
ラス「父はオレを、母の不貞によって生まれた子だと疑っている。 母と同じように、込み上げる色情に惑わされ続けたオレは……。 愛なんて形のないものを求めるより、ただ抱き合っている瞬間がすべてだった」
(そんな……!)
ラス「でも……キミの言うとおりだ。 どんなに肌を重ねても、狂おしいほどの渇きは少しも満たされなかった」
額に手を添えながら、ラスさんが吐き出すように訴える…-。
(ラスさん……)
ラス「わかっただろう? こんなオレが城に戻ることなんて許されない。 父を苦しめ、色欲の力に翻弄されるオレが…-」
〇〇「すべて誤解なんです……国王様は、ラスさんを大切に思ってらっしゃいます。 けれど、国王様にはラスさんの孤独を癒す方法がわからずに、ただ、王妃様と同じ道を歩ませてはいけないと……」
ラス「父が……? まさか」
そうかすれた声でつぶやいたラスさんの瞳に、光るものがにじむ…-。
ラス「……。 ……どんなに強く求めても、心を返してもらえるなんて思ってなかった。 父も母も、幼いオレを遠ざけるばかりで……」
私の手をぎゅっと握り、ラスさんが静かに微笑む。
そんな彼に、私は…-。
〇〇「私の心も、ここにあります。 どんな時も、ラスさんの傍に……」
ラス「〇〇……」
ラスさんは苦しげに私の名を呼ぶと、格子から腕を伸ばして私の顔を引き寄せる。
監獄の格子越しに、私達は初めての口づけを交わしたのだった…-。