罪過の国を訪れてから、しばらく経った頃…-。
ラス「〇〇、おはよう。今日も可愛いね」
〇〇「ラスさん……おはようございます」
ラスさんは相変わらず、私の顔を見るたびに口説いてくる。
(毎回、さらっと聞き流せばいいのかもしれないけど……)
ラス「ねえ、今夜こそキミの部屋に行っていい……?」
耳元で囁くように尋ねられれば、その声が甘い痺れとなって全身を駆け巡る。
〇〇「あ、あの、今日は公務があるんじゃ……?」
ラス「公務なんて退屈なだけだよ。 それよりキミと一日中ベッドで抱き合ってる方が、よっぽど刺激的だ」
ラスさんは私の手を取ると、指先を緩く絡めた。
(あっ……)
繋いだ手がそっと持ち上げられ、ラスさんの柔らかな唇が私の指先を愛しげにかすめた時…-。
??「ラス様!」
慌ただしく廊下を駈ける音が聞こえ、はっとして顔を上げた。
大臣「ラス様、お控えくださいませ……!」
青い顔をした大臣さんが、ひどく焦った様子で私達の傍にやってきた。
大臣「場所柄もわきまえず、感心しませんぞ! この事が国王様の耳に届いたら……」
ラス「あー。はいはい、わかってるよ」
ラスさんは私の手を離し、両手を上げてわざとらしく距離を取る。
大臣「〇〇様も、不用意な振る舞いをされては困りますぞ!」
〇〇「え…-」
大臣「一国の姫君である貴方様までが、ラス様の色欲の力に惑わされるなど……!」
普段は温厚な大臣さんが、動揺を隠せない様子で私に厳しく詰め寄る。
その剣幕に、私は……
〇〇「あの、ごめんなさ……」
ラス「何も言うな」
謝ろうとした矢先、ラスさんが私をかばうように前へと進み出た。
ラス「トロイメアの姫に対して、その口のきき方はないだろう」
(ラスさん……)
ラス「彼女を誘ったのはオレだ。咎めるならオレだけにしろ」
大臣「ラス様……」
ラスさんはふっと息を吐き、口元に薄く笑みを浮かべた。
ラス「大丈夫だ。父の手を煩わせぬよう、これでもわきまえている」
大臣「……まもなく謁見の時刻です。広間においでください」
ラスさんが頷くと、大臣さんは私に向き直って深く頭を下げた。
大臣「〇〇様、大変失礼を申し上げました」
〇〇「いえ……」
大臣さんは私達を一瞥した後、廊下を戻って行く。
ラス「……驚かせてすまない。 今夜……公務の後、少し話せるかな」
いつになく沈んだ声音で、ラスさんが私を誘う。
今の彼を放っておくことは、決してできなくて……
〇〇「はい……」
ラス「ありがとう……キミに見せたい場所があるんだ」
(見せたい場所?)
ラスさんの悲しげな表情から目が離せないまま、私は小さく頷いた…-。