ラスさんに連れられ、部屋へとやってきた後…-。
―――――
ラス『すぐその気にさせてみせるから……覚悟しててね?』
―――――
(ラスさんが、私をその気にさせるって……)
(本気で言ってるの……?)
突然迫られてひどく混乱した私は、じりじりとラスさんから距離を取る。
ラス「そんなに警戒しないで。無理にどうこうするつもりはないよ。 姫のご機嫌をうかがうには、まずデートからかな?」
〇〇「え……?」
(ラスさんとデート……?)
ラス「ちょっと遠回りな気もするけど、女の子を怖がらせるわけにもいかないし。 順序通りに……ね?」
〇〇「えっと、二人でどこかに出かけるぐらいなら構いませんけど……」
ラス「本当? 嬉しいよ、ありがとう」
ラスさんはクスリと、色っぽい笑みを浮かべる。
ラス「行きたいところとか、気になる場所はある?」
そう問われ、城へ来るまでに目にした、要塞のような古い建物が脳裏に浮かぶ。
〇〇「そうですね……やっぱり、あの大きな監獄が印象に残ってます」
私の言葉に、今までにこやかだったラスさんがその整った顔をしかめた。
ラス「それは駄目。あそこはオレなんかより、こわ~い人達がたくさんいるからね」
その言葉に身をすくみ、私は思わず自分の体を守るように抱きしめる。
ラス「あの場所に近づいちゃ駄目だよ。約束できる?」
〇〇「はい……約束します」
ラス「うん。いい子だね」
髪に優しいキスが落とされる。
それだけで、また心臓がうるさく鳴り始めた…-。。
…
……
翌日、ラスさんが連れていってくれたのは、女性達が集まる社交場だった。
女性1「ラス様がいらしたわ! 相変わらず、匂い立つような色香……」
女性2「あのお姿を見ているだけで、体が疼いてきちゃう……!」
(女の人達が皆、ラスさんを見てる……)
ラスさんが女性達に向かって、ひとたび軽く微笑むと……
女性達「はあぁぁん…………!」
店内はうっとりとしたため息で満たされ、にわかに色めき立つ。
ラス「ここは目立ってしまうね。こっちへ……」
〇〇「は、はい」
…
……
ラスさんに手を引かれてやってきたのは、王族専用のVIPルームだった。
〇〇「すごく豪華な部屋ですね……」
(この部屋……あの女性達と一緒に使うこともあるのかな)
滑らかなビロードのソファに腰かけると、何故だかそんなことが気になって……
〇〇「……女性達、皆ラスさんをみていましたね」
ラス「え?」
〇〇「あっ……」
(いけない。私、つい……)
いたたまれない気持ちを覚えた私は、ラスさんから目を逸らしてしまう。
けれど、彼はどこか楽しそうに私の顔を覗き込んできた。
ラス「へぇ……気になった?」
〇〇「い、いえ……」
ラス「……ふ~ん」
ラスさんの口角が、ニッと吊り上がる。
ラス「今は、〇〇がオレの恋人だよ」
ラスさんは少しも悪びれることなく、堂々と言ってのけた。
〇〇「私、ラスさんの恋人になった覚えは…-」
ラス「どうして? オレはこんなにキミを求めてるのに」
言葉を被せるように、ラスさんが私の肩にそっと腕を回す。
甘い空気が部屋を満たし、髪を梳くように優しく撫でられて……
ラス「……オレの言葉が信じられない?」
いつもより低いラスさんの声が、私の耳元で切なく響いた。
けれど……
〇〇「困らせないでください……」
ラス「……」
二人の間に、束の間の沈黙が落ちる……
ラス「キミが信じてくれないなら……言葉を伝えたところで、意味なんてない。 信じられるのは、抱き合う時の温もりだけだからね。 そう……心や言葉なんて、何の意味もないんだ」
〇〇「え……?」
突然曇ってしまった彼の表情に困惑していると、ラスさんはわずかに気まずそうな顔をした後、再び妖艶な笑みを浮かべた。
ラス「だから〇〇……早くキミが欲しいよ……」
そうつぶやいた後、ラスさんは私の頬に手を差し伸べて……
そっと唇に触れると、親指の腹で輪郭を柔らかくなぞった。
(ラスさん……)
ただそれだけで、胸がどうしようもなく疼いてしまう。
(だけど……)
―――――
ラス『信じられるのは、抱き合う時の温もりだけだからね』
―――――
(……ラスさんはとても魅力的で、私を本当に大切にしてくれる)
(だけど、ラスさんが欲しがっているのは私の体だけ)
そう思った瞬間、胸に鈍い痛みが走る。
(いつか本当に、彼を好きになる日がくるかもしれない)
(だけど……ちゃんと気持ちを通わせないまま、このまま流されるなんて嫌……)
ラスさんといると、心揺れてしまう自分を戒めるように……
並んで座るソファの上で、私はわずかに彼と距離を取ったのだった…―。