(この国の天候は、本当に不思議……)
外を覗くと、確かに月が出ているのに、雨もしとしとと降り続いている。
砕牙さんのもとへ向かうと、彼は部屋の窓辺に腰かけて、その景色をただじっと眺めていた。
(……っ)
月を仰ぐ砕牙さんの横顔は、まるでこの世のものとは思えないほど繊細な神々しさを讃えている。
(綺麗……)
その美しさに、思わず息を呑んだ。
砕牙「……うぬか」
顔を外に向けたまま、砕牙さんがぽつりとつぶやく。
〇〇「は、はい」
砕牙「美しい月時雨だろう? いくら雨を呼ぶ力があろうと……このように美しい光景は、我には作り出せぬ」
哀しげな横顔に、胸の奥が痛む。
砕牙「うぬも……美しいものが好きであろう?」
〇〇「え……?」
砕牙さんの突然の問いかけに、私は瞳を瞬かせる。
砕牙「……おかしなことを聞いたな。美しいものが嫌いなものなどおらぬ」
砕牙さんは、自嘲気味に笑い、哀しげにそっと目を伏せた。
〇〇「砕牙さん……?」
その様子に切なさがこみ上げて、思わず近づくと……
〇〇「……っ」
砕牙さんの長い手に、肩が抱き寄せられた。
砕牙「……」
砕牙さんは何も言わず、ただじっと私を抱きながら、外を見つめるだけ……
何事にも動じることのなかった砕牙さんの瞳が、月光に惑うように揺れている。
砕牙「うぬが、我に何を伝えようとしておるのかはわかる」
〇〇「……私……」
私の肩を包む彼の手の熱を感じて、言いかけた言葉が、宙に吸い込まれていく。
(離れたくない……)
砕牙「……」
砕牙さんが、私の顔を覗き込む。
砕牙「ここを去るか否かは、明日まで待ってくれぬか」
(……)
いつもとはまるで違う切実なその声に、私は小さく一つ頷いた。
砕牙「すまぬな……」
月明かりが、どこまでも美しく砕牙さんに降りそそぐ。
彼がその光に消え入りそうに思えて、私の胸はひどく軋んだ…-。