砕牙さんと伊呂具での時間を過ごして、しばらく…―。
森の木々が、雨粒を受けてきらきらと輝いている…―。
砕牙「そうか、うぬの国にはそんなに近代的なものがあるのか」
いろいろな土地を巡りながら、国のことや互いのことを話していると、心の距離が少しずつ縮まっていく気がする。
(砕牙さん、何だか楽しそう)
いつもの柔らかな声に、時折明るい声が混じっていく。
全身で私のことを聞き、理解しようとしてくれているようだった。
砕牙「実に興味深い…いつかはうぬの国にも行ってみたいものだな」
○○「はい、ぜひ」
砕牙「しかし、うぬには我の国は物足りぬかも知れんな」
○○「え……?」
私は慌てて、首を横に振って……
○○「そんなことありません。この国はとても面白いと思います」
砕牙「面白い?」
○○「はい。私の国と似ているようで、全く違うから……すごく興味深いです」
砕牙「……そうか。ならば、うぬにはこの国をもっと知って貰いたいものだな」
○○「はい! ぜひ、もっといろいろ教えてください」
砕牙さんが私の言葉に、深く相づちを打ってくれる。
砕牙「うぬの国は、不思議な国のようだな」
○○「私からすれば、砕牙さんの国も……それに砕牙さんも、とても不思議です」
砕牙「ほう。なぜだ」
(鳥居の結界に守られた中で暮らす、大人で優しくて素敵な人……)
そう言いたかったけれど、恥ずかしくて到底言えそうにない。
答えに困って、口をつぐんでしまうと……
砕牙「よい。語らずとも、うぬの心はわかってきた。 澄み切った川のように美しく、軽やかなせせらぎをいつも奏でているのだからな」
○○「そんな……」
ふわりと優しく、砕牙さんの手が私の髪に触れる。
うつむきかけ、顔を覆ってしまいそうな私の髪を、砕牙さんがそっと掻き上げた。
(は、恥ずかしい……)
砕牙「なぜ、我を目を合わせぬ。 千年の時を生きた中で、うぬのような人間に出会ったのは初めてだ。 もっと、より深く、我にうぬという人間を教えてくれぬか」
(砕牙さん……)
ゆっくりと顔を上げた、その時だった。
従者「砕牙様、大変です! 井戸の水がまた急激に増加しております!」
○○「……!」
砕牙「……そうか」
砕牙さんは、やはり動じることも慌てることもなく……
落ち着いた声でそう言うと、優しく私の手を取った…―。