第4話 縮まる距離

砕牙さんと伊呂具での時間を過ごして、しばらく…―。

森の木々が、雨粒を受けてきらきらと輝いている…―。

砕牙「そうか、うぬの国にはそんなに近代的なものがあるのか」

いろいろな土地を巡りながら、国のことや互いのことを話していると、心の距離が少しずつ縮まっていく気がする。

(砕牙さん、何だか楽しそう)

いつもの柔らかな声に、時折明るい声が混じっていく。

全身で私のことを聞き、理解しようとしてくれているようだった。

砕牙「実に興味深い…いつかはうぬの国にも行ってみたいものだな」

○○「はい、ぜひ」

砕牙「しかし、うぬには我の国は物足りぬかも知れんな」

○○「え……?」

私は慌てて、首を横に振って……

○○「そんなことありません。この国はとても面白いと思います」

砕牙「面白い?」

○○「はい。私の国と似ているようで、全く違うから……すごく興味深いです」

砕牙「……そうか。ならば、うぬにはこの国をもっと知って貰いたいものだな」

○○「はい! ぜひ、もっといろいろ教えてください」

砕牙さんが私の言葉に、深く相づちを打ってくれる。

砕牙「うぬの国は、不思議な国のようだな」

○○「私からすれば、砕牙さんの国も……それに砕牙さんも、とても不思議です」

砕牙「ほう。なぜだ」

(鳥居の結界に守られた中で暮らす、大人で優しくて素敵な人……)

そう言いたかったけれど、恥ずかしくて到底言えそうにない。

答えに困って、口をつぐんでしまうと……

砕牙「よい。語らずとも、うぬの心はわかってきた。 澄み切った川のように美しく、軽やかなせせらぎをいつも奏でているのだからな」

○○「そんな……」

ふわりと優しく、砕牙さんの手が私の髪に触れる。

うつむきかけ、顔を覆ってしまいそうな私の髪を、砕牙さんがそっと掻き上げた。

(は、恥ずかしい……)

砕牙「なぜ、我を目を合わせぬ。 千年の時を生きた中で、うぬのような人間に出会ったのは初めてだ。 もっと、より深く、我にうぬという人間を教えてくれぬか」

(砕牙さん……)

ゆっくりと顔を上げた、その時だった。

従者「砕牙様、大変です! 井戸の水がまた急激に増加しております!」

○○「……!」

砕牙「……そうか」

砕牙さんは、やはり動じることも慌てることもなく……

落ち着いた声でそう言うと、優しく私の手を取った…―。

 

 

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