天狐の国・伊呂具 蒼の月…―。
木々に緑が生い茂り、澄んだ空気に動物達の息づかいが優しく響く。
○○「不思議な天気……」
空には太陽が出ているのに、雨はしとしとと降り続いている。
(それに、どこか不思議な雰囲気……)
足元を取られないように、険しい山道を教えられた通りに歩いていく。
(確かこの先で、落ち合えるはずだったけど、合ってるよね?)
すると、突然、さわりと空気が不可思議に震えた。
??「大丈夫か?」
○○「え……?」
どくんと体の奥が震え、風や音がぴたりと止む。
顔を上げると……
砕牙「我が招待したと言うのに、不自由な思いをさせたようで申し訳なかった」
○○「砕牙さん!」
切れ長の美しい目が、美しい孤を描いて細められる。
妖しげで美しい、不思議な雰囲気をまとった人が、そこに立っていた。
砕牙「うぬを迎え入れようと思うばかりに、雨がついてきたか」
○○「え……?」
砕牙「我は雨を操ることができる。この霧雨も、うぬの来訪を喜んでいるのだろう」
見上げた砕牙さんの手にある和傘が、雨を弾いてとても美しい。
砕牙「迎えを待たせておる。これ以上濡れぬうちに、早く参ろう」
○○「迎え……?」
砕牙「さあ」
傘の中に一緒に入るよう促され、私は頷いた。
険しい山道をまるで平坦な道のように軽快に砕牙さんは、歩いていく。
(背……高いな)
無意識にそんなことを考えていると、予期せず視線が絡んだ。
砕牙「寒くはないか」
○○「は、はい」
砕牙「輿を待たせておる。中は温かいだろう」
○○「ありがとうございます」
向かっていくその先には、黄金の紋がついた大きな輿が見えた。
(立派な輿……)
こうして私達は輿に揺られ、伊呂具城へと向かったのだった…―。