反乱軍の領主の元へ向かう途中、何者かによる奇襲を受けた後…-。
俺は弓矢で撃たれ意識を失った〇〇を、急ぎ城へと連れ帰った。
雷「……容体は?」
手当てが終わったとの知らせを受けた後、俺は〇〇の部屋を訪れ……
未だ苦しげな表情を浮かべ眠り続ける彼女を見つめた後、傍に控える家臣に容体を訪ねた。
家臣「はっ。お命に別状はございません。 適切な応急処置が施されておりましたので、おそらく数日中には癒えるかと……」
雷「そうか……」
家臣の言葉を聞いて、ほっと胸を撫で下ろすものの……
〇〇「……っ……」
雷「!!」
〇〇のか細いうめき声を聞いた俺は、思わず彼女の枕元に両膝をついて呼びかける。
雷「〇〇!? 気がつい…-」
家臣「いえ、傷による熱にうなされているだけのようです。 恐らく意識がお戻りになるまで、まだしばらくかかるかと……」
雷「あ……ああ。それもそうだな」
今まで怪我人など何人も見てきたはずなのに、彼女のこととなるとつい心が乱れてしまう。
(……っ)
(できることならば、代わってやりたいものを……)
苦しげに息を吐く彼女の枕元で腕組をする俺は、何もできないもどかしさから自ら腕に強く爪を立てていた。
家臣「雷様……」
家臣が俺の様子を心配そうに見つめている。
その時…-。
雷「……? 〇〇?」
布団から出た彼女の手が、頼りなく空を彷徨う。
たまらず俺は、その小さな手を両手でそっと包み込んだ。
家臣「あ……表情が少し和らぎましたね」
家臣の言葉を受けて〇〇の顔を見ると、その表情は確かに先ほどよりも和らいでいるようだった。
雷「〇〇……。 ……俺が……」
家臣「……? 雷様?」
雷「俺がこのまま手を握っていても、〇〇の傷に障りはないか?」
家臣「え? あ……は、はい。 お顔を拝見する限り、むしろ苦痛は和らいでいるようですし問題はないかと……」
雷「そうか。ならば彼女が目覚めるまで、このままでいさせてもらう。 情けないが、こんなことぐらいしかしてやれないからな……」
家臣「雷様……」
先ほど俺の質問に目を丸くしていた家臣は、俺の言葉を聞いた後、どこか労わるような目で見つめてくる。
家臣「……承知しました。それでは私は桶の水を取り替えてまいりますので。 しばしの間、姫君をお願いいたします」
雷「ああ」
そうして襖が閉まる音と共に、俺は〇〇と二人きりになった。
雷「……」
〇〇「っ……ぅ……」
静まり返った部屋に、傷が痛むのか時折彼女のうめき声が響く。
雷「〇〇……」
片手で彼女の手を握りしめたまま、手近にあった布で額に浮かんだ汗を拭いてやり、壊れ物を扱うかのように優しく髪を一撫でする。
(……すまない)
(俺がこのような時に、お前を呼び寄せたりしなければ……)
(あの時、守れていたらこんなことには……)
苦痛に歪む彼女の顔を見て、胸の奥が大きく軋む。
それは信頼していた男の裏切りよりも、重く深く俺の心を蝕んでいた。
(……もう、二度と……)
(二度とお前をこのような目に遭わせたりはしない)
(次こそは、何があろうとも)
(……たとえこの身を犠牲にしてでも、お前を守り抜いてみせる)
そうして俺は、なおも力なく俺へとすがる〇〇の手を握り……
翌日彼女が目覚めるまで、不眠不休で枕元に控えていたのだった…―。
おわり。