裏切った家臣について教えてくれると言った雷さんは、ひとつ、深く息を吐いた。
雷「今回我々を裏切り、反乱を起こしたあの男は……。 実は、父上の腹心でもあった男だ。 それに俺も、あの男のことを、幼い頃からとても慕っていた」
〇〇「そんな……」
雷さんの言葉に、胸がひどく痛んだ。
雷「あの男は父の片腕となり働いていたし、忠義を尽くしていた。 俺にも武道全般を指導してくれ、ここまでの腕にしてくれた。 優秀な男だった……。 父上もあの男を認め、そして俺も……尊敬していたというのに……。 それなのに、この謀反とは……」
〇〇「雷さん……」
雷さんの沈痛な表情に、胸が締めつけられる。
(そんなに信頼していた、近しい人に裏切られたなんて……)
思わず、雷さんに手を伸ばすと…-。
〇〇「あ……」
と、その手をきつく握られる。
雷「お前という女は……」
雷さんは狂おしげに眉間に皺を刻み、それから……
雷「何故いつも……俺の心を暴く」
強く私を引き寄せ、抱き締めてしまった。
どこまでも悲しい声音は、雷さんの身を引き裂くような悲痛に聞こえる。
(雷さん……こんなに苦しんでいたんだ……)
私は雷さんの背中にそっと手を回した。
雷「情けない男だ……」
〇〇「話し合うことは……できないのですか?」
雷「おかしなことを言うな。そんなこと、あの男が受け入れるはずがない」
〇〇「今まで一度も話し合いができていないなら、やってみる価値はないでしょうか。 もしかすると……」
雷「本気でそのように思っているのか」
そっと抱き締める拘束を解き、雷さんはじっと私を見つめた。
悲しみを孕んだ強く悲しい瞳が、じりじりと私を追い詰めるように居抜く。
〇〇「はい」
雷さんの瞳は、迷うように揺れていたけれど、やがて…―。
雷「……わかった。やってみよう」
〇〇「はい……!」
悲しみの中に、一縷の望みをかけた輝きが宿った…-。
…
……
話し合いの申し出をして、反乱軍の領主のもとへと向かうことになった。
〇〇「まずは話し合いの場が持てて、よかったですね」
雷「油断するな。罠かもしれん」
〇〇「……」
無理を言い、私も同行させてもらったのだけれど……
雷「……」
雷さんは、神経を研ぎ澄ませるように、辺りをひどく警戒していた。
(話し合うって雰囲気ではないよね……)
そう思ったとき…―。
雷「伏せろ!」
〇〇「っ……!?」
突如、雷さんが私に覆い被さるようにして地面に伏せた。
ぎりぎりのところを、弓矢が走り、地面に突き刺さる。
護衛「何やつ!?」
雷「領主と話をしにきた! 武器を下げよ!!」
護衛「信じられるか!」
その言葉に、悔しげに雷さんが歯がみする。
その間にも弓矢は飛び交い、応戦しようと雷さんが立ち上がった瞬間…-。
〇〇「っ……!」
重く鋭い痛みが肩に走り、その衝撃で私は体のバランスを崩した。
雷「〇〇!?」
けれど完全に倒れ込む前に、しっかりと雷さんの腕に抱き留められた。
肩に焼けつくような熱さと痛みが爆発する。
雷「くそっ、弓が……!」
悔しげに言葉を吐いたあとで、雷さんは傍にいた家臣を呼びつけた。
雷「俺はすぐにこいつを城へ連れ帰り手当てを受けさせる。 お前はこれを、必ず領主に渡してこい。 必ずだ」
家臣「はっ」
雷「くそっ! やはり和平など……!!」
怒りに孕んだ雷さんの声が、だんだん遠ざかっていく…―。
(駄目……争わないで…-)
やがて私の意識は、遠ざかっていった…-。