月7話 怪我

裏切った家臣について教えてくれると言った雷さんは、ひとつ、深く息を吐いた。

雷「今回我々を裏切り、反乱を起こしたあの男は……。 実は、父上の腹心でもあった男だ。 それに俺も、あの男のことを、幼い頃からとても慕っていた」

〇〇「そんな……」

雷さんの言葉に、胸がひどく痛んだ。

雷「あの男は父の片腕となり働いていたし、忠義を尽くしていた。 俺にも武道全般を指導してくれ、ここまでの腕にしてくれた。 優秀な男だった……。 父上もあの男を認め、そして俺も……尊敬していたというのに……。 それなのに、この謀反とは……」

〇〇「雷さん……」

雷さんの沈痛な表情に、胸が締めつけられる。

(そんなに信頼していた、近しい人に裏切られたなんて……)

思わず、雷さんに手を伸ばすと…-。

〇〇「あ……」

と、その手をきつく握られる。

雷「お前という女は……」

雷さんは狂おしげに眉間に皺を刻み、それから……

雷「何故いつも……俺の心を暴く」

強く私を引き寄せ、抱き締めてしまった。

どこまでも悲しい声音は、雷さんの身を引き裂くような悲痛に聞こえる。

(雷さん……こんなに苦しんでいたんだ……)

私は雷さんの背中にそっと手を回した。

雷「情けない男だ……」

〇〇「話し合うことは……できないのですか?」

雷「おかしなことを言うな。そんなこと、あの男が受け入れるはずがない」

〇〇「今まで一度も話し合いができていないなら、やってみる価値はないでしょうか。 もしかすると……」

雷「本気でそのように思っているのか」

そっと抱き締める拘束を解き、雷さんはじっと私を見つめた。

悲しみを孕んだ強く悲しい瞳が、じりじりと私を追い詰めるように居抜く。

〇〇「はい」

雷さんの瞳は、迷うように揺れていたけれど、やがて…―。

雷「……わかった。やってみよう」

〇〇「はい……!」

悲しみの中に、一縷の望みをかけた輝きが宿った…-。

……

話し合いの申し出をして、反乱軍の領主のもとへと向かうことになった。

〇〇「まずは話し合いの場が持てて、よかったですね」

雷「油断するな。罠かもしれん」

〇〇「……」

無理を言い、私も同行させてもらったのだけれど……

雷「……」

雷さんは、神経を研ぎ澄ませるように、辺りをひどく警戒していた。

(話し合うって雰囲気ではないよね……)

そう思ったとき…―。

雷「伏せろ!」

〇〇「っ……!?」

突如、雷さんが私に覆い被さるようにして地面に伏せた。

ぎりぎりのところを、弓矢が走り、地面に突き刺さる。

護衛「何やつ!?」

雷「領主と話をしにきた! 武器を下げよ!!」

護衛「信じられるか!」

その言葉に、悔しげに雷さんが歯がみする。

その間にも弓矢は飛び交い、応戦しようと雷さんが立ち上がった瞬間…-。

〇〇「っ……!」

重く鋭い痛みが肩に走り、その衝撃で私は体のバランスを崩した。

雷「〇〇!?」

けれど完全に倒れ込む前に、しっかりと雷さんの腕に抱き留められた。

肩に焼けつくような熱さと痛みが爆発する。

雷「くそっ、弓が……!」

悔しげに言葉を吐いたあとで、雷さんは傍にいた家臣を呼びつけた。

雷「俺はすぐにこいつを城へ連れ帰り手当てを受けさせる。 お前はこれを、必ず領主に渡してこい。 必ずだ」

家臣「はっ」

雷「くそっ! やはり和平など……!!」

怒りに孕んだ雷さんの声が、だんだん遠ざかっていく…―。

(駄目……争わないで…-)

やがて私の意識は、遠ざかっていった…-。

 

 

 

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