反乱軍領主の見舞いと話し合いを終えた帰り道、俺と〇〇は平原へ立ち寄った。
(いい風だ……)
難航するであろうと踏んでいた和平交渉は成功を収め、俺は清々しい気持ちのまま平原を吹き抜ける風に身を任せる。
〇〇「本当によかったですね」
雷「ああ……ここまで上手くいくとは、思わなかったがな」
〇〇「そうなんですか?」
雷「当たり前だ。物事はそう簡単にいくものではない。 しかし……お前がいると、よいことが起こるような気がするのだ」
(実際に今回の和平も、お前が俺の脆い心を支えてくれなかったらどうなっていたか……)
雷「お前には、願いを叶えてくれる不思議な力があるのかもしれない」
俺の言葉に、〇〇の頬がほんのりと赤く染まる。
雷「……」
そんな彼女の頬に、俺は微笑みを浮かべながら手を伸ばし……
優しく包み込むように触れ、言葉を紡ぐ。
雷「これまで、俺は次期国王になるのだからと、父の背を見て必死で頑張ってきた。 優しい心などいらん、と幾度も思い心を鬼のようにしようと、努めてもみたが……。 ……どうやら俺にはできないようだ」
〇〇「雷さんは、誰よりも優しい人ですから」
(……何を言う。優しいのはお前の方だ)
幾度となく不甲斐ない自分を優しく受け止めてくれた彼女の姿が頭を過ぎった。
雷「お前がいれば、俺のままでいられるような気がする。 不思議と、許されるような気がするのだ」
〇〇「雷さん……」
〇〇の頬を包んでいた手を滑らせ、そっと撫でる。
〇〇「でもきっと……優しいから、強くなれるんじゃないでしょうか」
(え……?)
彼女の発言に思わず目をしばたたかせてしまったものの、その言葉は少しずつ心に染み渡り……
雷「では、そう思っていよう」
温かい気持ちで満たされた俺は、再び微笑む。
(……本当に不思議な女だ)
(か弱い女の身でありながら、自分よりも俺の身を案じたり)
(不思議と俺の欲している言葉をくれたり……)
この争いの最中、無償の優しさで包み支えてくれた彼女を想い、自分の心に芽生えた気持ちを噛みしめる。
(……まさかこの俺が、絶対に手放したくないなどと思ってしまうとはな)
そして…―。
雷「〇〇。これからも俺の傍にいてくれるか?」
反乱軍との争いが終わった今、ずっと心に秘めていた想いを口にした。
〇〇「え……?」
雷「俺のものになれ、〇〇」
俺の一世一代の告白に、彼女は驚きと動揺が入り混じったような複雑な表情を浮かべる。
(……)
黙って返事を待つものの、胸の鼓動がやたらうるさく鳴り響き、落ち着かない。
するとその時…-。
(〇〇……?)
彼女の表情が少しずつ和らぎ、ゆっくりと笑みを浮かべ……
〇〇「はい。雷さん」
そう、優しくも力強い返事をくれた。
雷「……いいのだな。俺は、もうお前を離さんぞ?」
俺が最終警告のつもりで尋ねると、彼女は深く頷いてくれる。
(そうか……)
安堵と共に、心の中が未だかつてないほどの喜びで満たされ、溢れる想いが自然と言葉に変わっていく。
雷「この国も、お前のことも。 大事なものを、俺は必ずこの手で守り抜いてみせよう。 必ず……」
強い誓いの言葉と共に、ゆっくりと彼女に唇を寄せる。
(〇〇……)
優しく甘い口づけは、やがて深く、激しくなり……
俺達は長い長い口づけを、いつまでも交わし合っていたのだった…-。
おわり。