そして、反乱軍領主を見舞う日がやってきた。
(緊張する……)
張り詰めた空気の中、雷さんと並んで私は領主のお見舞いに連れだっていた。
けれど、領主の部屋に入った途端…。
○○「っ……!?」
雷「……」
すぐに引き抜けるよう刀に手をかけた護衛の男達に、隙間なく周りを囲まれる。
雷「争う気はない」
雷さんが低い声で言いながら、背で私を庇ってくれる。
雷さんは囲まれようとも、微動だにしなかった。
雷「下がらせろ」
反乱軍領主「……」
様子をうかがうように、領主は険しい顔をする。
しかし……
反乱軍領主「……下がれ、話をする」
領主は男達に命じ、包囲は解かれた。
(よかった……)
私達はやっと落ち着いて、領主と向き合い腰をおろした。
雷「薬は飲んだか」
反乱軍領主「……はい」
雷「毒ではなかっただろう」
反乱軍領主「……毒見はさせましたが」
雷「具合はどうだ。動けるほどではあるようだが」
反乱軍領主「それは……みるみると、よくなりました」
雷「そうか、よかった」
反乱軍領主「しかし、なぜ……」
心底わからないといった顔で、領主は雷さんを仰ぎ見る。
雷「お前は父上の腹心だ。よって、死なせるわけにはいかない。 それに、俺もお前には随分と世話になった」
反乱軍領主「またそのような、ゆるいことを……っ!」
領主が、憤りをぶつけるように、畳をこぶしで殴りつける。
反乱軍領主「お優しいだけでは国を治められないと、私はいつも雷様に申しあげてきたはずです……!」
雷「ああ」
それからしばし、沈黙が流れた。
雷「俺は、和平を望む。 これ以上、我が国の者が血を流す姿は見たくない。 例えまたお前に、ぬるいだの甘いだの言われようと、この望みは変わらん」
ゆっくりと、領主はこうべを垂れていった。
そして……
反乱軍領主「……和平、を……」
(……!)
反乱軍領主「そのお優しさは……お父上とは違いますが……。 それもまた……国の主としてのひとつの姿なのかもしれませんね……」
雷「それはわからん。 しかし、皆を思うこの信念だけは、決して曲げん」
言うと、雷さんは立ち上がった。
反乱軍領主「雷様。私の処分は、いかに?」
雷「二度目はない。それだけだ。 行くぞ、○○」
○○「は、はい」
去り際に振り返ると、領主は深く頭を下げ続けていた。
見舞いと話し合いを終えた帰り道、私と雷さんは平原を立ち寄った。
優しい風に吹かれる雷さんの横顔は、すっきりと清々しく見える。
○○「本当によかったですね」
雷「ああ……ここまでうまくいくとは、思わなかったがな」
○○「そうなんですか?」
雷「当たり前だ。物事はそう簡単にいくものではない。 しかし……お前がいると、よいことが起こるような気がするのだ。 お前には、願いを叶えてくれる不思議な力があるのかもれない」
その言葉に、思わず頬を染めてしまう。
雷「……」
すると雷さんが、ふわりと優しく微笑んだ。
そして……
優しく私の頬に、彼の手が触れた。
頬だけでなく、唇にまで触れてしまうくらい大きな手のひら。
(……優しい顔)
雷「これまで、俺は次期国王になるのだからと、父の背を見て必死で頑張ってきた。 優しい心などいらん、と幾度も思い心を鬼のようにしようと、つとめてもみたが……。 ……どうやら俺にはできないようだ」
○○「雷さんは、誰よりも優しい人ですから」
雷「お前がいれば、俺のままでいられるような気がする。 不思議と、許されるような気がするのだ」
○○「雷さん……」
優しく頬を包んでいた手が滑り、撫でられる。
慈しむような優しい瞳……
○○「でもきっと……優しいから、強くなれるんじゃないでしょうか」
不意に浮かんだ言葉を口にすると、雷さんは不思議そうに目を瞬かせた。
そしてまた、優しく微笑んで…-。
雷「では、そう思っていよう。 ○○。これからも俺のそばにいてくれるか?」
○○「え……?」
雷「俺のものになれ、○○」
強く鼓動が脈打つ。
突然の言葉に心臓がうるさくて……
(嬉しい……)
驚きと同様に突き動かされながら、私はゆっくりと笑みを浮かべた。
○○「はい。雷さん」
雷「……いいのだな。俺は、もうお前を離さんぞ?」
雷さんの問いかける甘い言葉に、強く頷いてみせる。
雷「この国も、お前のことも。 大事なものを、俺は必ずこの手で守り抜いてみせよう。 必ず……」
強い近いの言葉と共に、ゆっくりと雷さんの顔が近づいてくる。
優しく唇が重なり合った。
(雷さん……)
優しく甘い口づけはやがて深く、激しくなって……。
私達は長い長い誓いの口づけを、いつまでも交わし合っていたのだった…-。
おわり。