雷「ここまで関わらせてしまったからには、話しておきたい……。 いや、聞いてほしいことがある」
敵に薬を送ると言い出した雷さんは、改めて私に向き直った。
○○「……はい」
雷「皆、下がれ」
家臣の方達を下がらせた後、雷さんはひとつ大きくため息を吐いた。
瞳が、心の揺らぎのように少しだけ揺れて、それからまっすぐに私を見つめる。
何か決心したように……
雷「先日は簡単にしか事情を話さなかったが……。 実は、反乱を起こした家臣は、父上の腹心だった」
○○「……!」
雷「いつも父上の力になり、忠誠心も人一倍強い男だったが。 こと俺には、やたら厳しくてな……」
○○「どうして、ですか?」
昔を思い返しているのか、雷さんはやや渋い顔になる。
雷「わからん。俺が父のような男ではないからかもしれないが」
○○「雷さんは、とても立派なのに……」
雷「父上には敵わない。 父上こそ立派な方だ。 何があろうとも動じず揺るがず……強い心でこの国を統治している。 家臣や城の者、近しい者にもいつも適格な指示を出し、この国はずいぶん長い間平和だった。 それなのに……」
(雷さん……?)
雷「俺が不甲斐ないばかりに、恐らく俺の世代を憂いて、この反乱は起きた」
○○「そんなこと……!」
雷「そうなのだ、きっと。 父上もどういうつもりか、今は国のまつりどとをほとんど俺に任せているからな。 不満が出ても、仕様がない」
雷さんが、あきらめたように、ゆるゆると首を振る。
雷「俺も父のようになるべく、努力をしてきたつもりだ。 あの男にも随分と武器を仕込まれ、強い心とは、と説教を受けたものだが……。 国を統治するのに……俺では力不足だと思われたのだろうな。 よって、自ら国を仕切り、切り開こうと、あの男は…-」
私は思わず、ぎゅっと彼の手を握った。
○○「そんなことはありません……! 雷さんは、強くて優しい人です。力不足だなんて……」
雷「……笑わないのか。 このようなことが起きてなお、敵に情けをかける俺のことを」
○○「笑ったりなんかしません。素晴らしいことだと思ってますから。 雷さんのお父様も、それがわかっているからこそ……。 このような事態になっても、雷さんを信頼して任せているのではないでしょうか」
雷「○○……」
握っていた手を、雷さんが逆に強く握り締めた。
指と指が一本ずつ絡まり合って、手と手が深く重なり合う。
雷「お前は、脆くなる俺の性根を強くする。 本当に……不思議な女だ」
○○「……少しでも役に立てているなら、嬉しいです」
雷「ああ、当たり前だ」
ふわりと繋ぎ合った手を引き寄せられ、優しく腕に包み込まれた。
○○「雷さん……早く、この争いが終わるといいですね」
雷「ああ、終わらせてみせる」
顔を上げればすぐそばに、雷さんの柔らかな笑みがあった。
(本当に一刻も早く終わりますように……)
その後、雷さんは王家専用の薬師に薬を作らせ、送った。
のちに申し出た見舞いを、反乱軍の領主は受けてくれることになった…-。