翌日…一。
ウィルさんは私の泊まっているホテルへと再びやってきた。
彼の控室は劇場と目と鼻の先にあるこのホテルにあるそうで、
試写会が始まるまで、ここで時間を潰すらしい。
◯◯「あとどれくらいでしょうか?」
ウィル「まだ開始まではしばらくあるね。ほら、窓から会場が見えそうだよ?」
彼に窓辺へと手を引かれて、外を覗くと……
◯◯「……!」
劇場はちょうど窓の下にあったようで、
レッドカーペットの近くに大勢の人々が詰めかけているのが見える。
◯◯「すごいですね、あんなにたくさん……カメラとかも」
ウィル「いいね……まずまずの話題性だよ。 まあ、公開日は、もっと派手にしたいけれども」
その時、扉がノックされ、メイクスタッフが部屋へと入ってきた。
メイクスタッフ「監督、いいですか? そろそろ準備をしないと」
ウィル「ええ、別に監督がわざわざメイクなんかする必要なくない?」
スタッフ「そうはいきませんよ、舞台挨拶なんですから……。 ヘアスタイリストも別室にもう待機してますから」
ウィル「じゃあ、前に発注したゾンビの特殊マスクを……」
スタッフ「監督!」
ウィル「わかったよ、仕方ないなあ」
うんざりとした表情をして、ウィルさんがスタッフに引っ張られるように連れて行かれる。
◯◯「好評だといいですね、挨拶、頑張ってください」
ウィル「うん。あ、あと……」
◯◯「……?」
急に何かを思い出したように、ウィルさんはポケットからメモを取り出した。
ウィル「そうそう、伝え忘れるところだった、終わったら少し君の時間をもらっていい? ……話したいことがあるんだ!」
◯◯「はい、大丈夫です」
(一体なんだろう……?)
メイクスタッフ「監督、早くしてください!」
ウィル「はいはい」
慌ただしく呼ばれて、ウィルさんは部屋を後にした。
…
……
それからしばらくして、青空に花火の音が鳴り響いた。
◯◯「……っ」
(始まった!)
窓から身を乗り出して、劇場の方を眺める。
すると一際大きな歓声が上がって、ウィルさんの姿が現れた。
レッドカーペットの上を堂々とウィルさんが進む。
観客1「きゃああああーーーー! 」
観客2「完成ずっと楽しみにしてました!」
詰め掛けたファンの黄色い声が、ここまで聞こえてくる。
フラッシュも恐ろしいほどにたかれ、見続けていると目が眩みそうになる。
ウィル「……」
その中を手を振りながら進む彼は、綺麗な笑みを浮かべている。
(あんなに大勢の人達に囲まれて……)
今更になってウィルさんの映画が、どれだけ多くの人に待ち望まれていたのかを知る。
世界が惚れる新進気鋭のウィル・ビートン監督……
(全然、知らなかった……)
だけどこうして別の場所から彼の姿を見ていると、まるで遠い場所の人にように思えてきて、胸が少しだけ痛んだ…ー。