ウィルさんに案内されて巡る撮影所は、その後も驚きと恐怖の連続だった。
さきほどから何かあるたびに心臓が騒いで、そろそろ限界が近い。
胸を抑えていると、さりげなくウィルさんの視線を感じた。
ウィル「僕、本当に君をここに連れてきて良かったと思ってる。まあでも、僕ももう君の反応はしっかり記録できたから……ちょっと休もうか?」
○○「ぜ、是非お願いします」
ウィル「もう少し行った所に休憩所があるから」
ウィルさんなりの気づかいに感謝して、私は彼の横を歩く。
その時…―。
○○「痛っ……」
指先に刺すような痛みを感じた。
ウィル「どうしたの?」
○○「セットに指をひっかけたみたいです……」
通路の壁に十字架をモチーフにした先の鋭い欄干が立てかけてある。
(これのせいかな?)
指先を見ると、人差し指の腹に小さな切り傷があり、血が出ていた。
ウィル「大丈夫? 見せてみ――― ち、ちち、血だ!!」
私の指先を見たウィルさんが、ぎょっとする。
○○「えっ、ウィルさん!?」
見る間に顔を真っ青にして、ウィルさんがその場にしゃがみ込む。
○○「大丈夫ですか?」
(どうしたんだろう?)
私は辺りを見回して……少し行った所にある、三人掛けの椅子に彼を横たえた。
しばらくすると、ウィルさんは眼鏡を押さえながら上体を起こした。
ウィル「ゴメン。案内するとか言って、迷惑かけちゃったね……僕、血が苦手で……」
○○「え……」
伝えられた意外な言葉に、額を抑える彼を見る。
○○「映画であんなに大量の血や傷がでてくるのに……」
彼の編集スタジオで見た、作りかけのホラー映画を思い出す。
○○「それに、その全身のタトゥーは?」
スーツの袖から覗くトライバル柄を指差す。
ウィル「これはただのペイント。自分の肌に針を刺すなんて、冗談じゃないよ! 映画のだって、全部血糊だしね。けど、本物だけはダメ。見た瞬間に気持ち悪くなる……」
○○「血糊と本物って、わかるんですか?」
ウィル「わかるよ! 全然違う!」
(全然違う? そうなのかな。それにしても意外……ウィルさんにそんな一面があるなんて)
ウィル「そうだ、怪我、大丈夫?」
○○「まだ少し痛みますけど……」
確認しようとした傷口を、ウィルさんから見えないようハンカチで隠す。
ウィル「ありがとう、気をつかわせちゃうね。救護室があるから、すぐにスタッフに手当させよう」
椅子から立ち上がったウィルさんが私に微笑む。
ウィル「もう、大丈夫……」
そういうけれど、まだ本調子ではないようで顔色が少し悪い。
だけど笑いかけてくれる様子に、彼なりの細やかな気づかいを感じる。
(変わった人かなって思ってたけど……)
ウィルさんの意外な一面を知って、私は彼に気付かれないように、くすりと笑みをこぼしたのだった…―。