ウィルさんの案内で、大きな撮影所のフロアを順に回る。
(思ったより……普通に案内してくれてる……)
どこのフロアも大勢のスタッフが忙しそうにしている。
(すごい……一体、何本くらい同時に作っているのかな?)
見慣れない機材や、今まさに進められている撮影を前に夢中になる。
ウィル「ちなみにここにいる人達全員、普通の王族でいう僕の臣下とか従者なんだ。この国では皆、映画製作のスタッフをしているんだよ」
○○「……そうだったんですか、さすが映画の国ですね」
伝えられた話と、その規模の大きさに息を呑む。
ウィル「国民も映画に関わる仕事をしている人が多いよ」
○○「なるほど……」
歩きながら、通路の奥へと進んでいく。
(やっぱりここも少し怖いな……)
通路の脇には、不気味なマネキンや特殊メイクのマスクが置かれている。
なかにはそれこそゾンビやモンスターの類の物もあって……
私は肩を震わせる。
その時…―。
ゾンビ「か゛ん゛と゛く゛―――」
○○「――っ!!」
目の前に血だらけの腐った死体が唐突に現れて、私は声にならない悲鳴を上げた。
ウィル「……!」
○○「え?」
肩を竦めた私をモンスターから守るようにして、ウィルさんが庇う。
流れるような所作に、一瞬だけ怖さを忘れた。
ウィル「これ、発注してたマスクなんだ、仕上がったんだね?」
スタッフ「はい、確認お願いします!」
マスクを脱ぎ捨てた中から出てきたのは、若い男の人だった。
(スタジオのスタッフさん?)
私が目に涙を溜めながら眺めてる横で、ウィルさんはその人に手早く指示を出す。
すると男の人は威勢の良い返事をして、背を向けて走り去っていった。
(びっくりした……)
ほっと息を吐きだす私を見て、ウィルさんが楽しげに笑いだす。
ウィル「クッ……ハハッ! アイツなかなかやるなあ!! 君、さっき僕の部屋にいた時よりも……ずっと恐怖に怯えた顔してた!! ……なんか、妬けるな。待って、メモだけ取らせて」
面白そうに笑ったかと思えば、今度は眉間に皺を寄せて不機嫌そうにメモを取り出す……
ウィル「カメラを回してなかったのが、悔やまれるなあ……」
○○「……ウィルさんの世界は、人の怯えた顔を中心に回っているんですね」
ウィル「おっ! 君はもう僕の世界のことを理解してくれたみたいだね」
ウィルさんは、嬉しそうに私に問いかけた。
ウィル「君、お化け屋敷とかホラーハウスの類、苦手なタイプでしょ?」
○○「はい……乗り物で動くタイプのは大丈夫なんですけど、歩くのは……」
ウィル「アハハ! まさに今、歩くやつだね! 怖かったら……手、繋いであげようか?」
○○「……っ」
耳元で囁くように問われて……
○○「え、えっと……」
今しがた心臓が凍るような思いをしたばかりで、口が回らない。
ウィル「……ダメ、だったかな? 残念……! あわよくばって思ってたのに」
○○「……?」
ウィル「なんでもないよ、さあ、次に行こう」
一瞬だけ、寂しそうな顔を見せて、ウィルさんは私を撮影所のさらに奥へ案内するのだった…―。