第4話 お化け屋敷

ウィルさんの案内で、大きな撮影所のフロアを順に回る。

(思ったより……普通に案内してくれてる……)

どこのフロアも大勢のスタッフが忙しそうにしている。

(すごい……一体、何本くらい同時に作っているのかな?)

見慣れない機材や、今まさに進められている撮影を前に夢中になる。

ウィル「ちなみにここにいる人達全員、普通の王族でいう僕の臣下とか従者なんだ。この国では皆、映画製作のスタッフをしているんだよ」

○○「……そうだったんですか、さすが映画の国ですね」

伝えられた話と、その規模の大きさに息を呑む。

ウィル「国民も映画に関わる仕事をしている人が多いよ」

○○「なるほど……」

歩きながら、通路の奥へと進んでいく。

(やっぱりここも少し怖いな……)

通路の脇には、不気味なマネキンや特殊メイクのマスクが置かれている。

なかにはそれこそゾンビやモンスターの類の物もあって……

私は肩を震わせる。

その時…―。

ゾンビ「か゛ん゛と゛く゛―――」

○○「――っ!!」

目の前に血だらけの腐った死体が唐突に現れて、私は声にならない悲鳴を上げた。

ウィル「……!」
○○「え?」

肩を竦めた私をモンスターから守るようにして、ウィルさんが庇う。

流れるような所作に、一瞬だけ怖さを忘れた。

ウィル「これ、発注してたマスクなんだ、仕上がったんだね?」

スタッフ「はい、確認お願いします!」

マスクを脱ぎ捨てた中から出てきたのは、若い男の人だった。

(スタジオのスタッフさん?)

私が目に涙を溜めながら眺めてる横で、ウィルさんはその人に手早く指示を出す。

すると男の人は威勢の良い返事をして、背を向けて走り去っていった。

(びっくりした……)

ほっと息を吐きだす私を見て、ウィルさんが楽しげに笑いだす。

ウィル「クッ……ハハッ! アイツなかなかやるなあ!! 君、さっき僕の部屋にいた時よりも……ずっと恐怖に怯えた顔してた!! ……なんか、妬けるな。待って、メモだけ取らせて」

面白そうに笑ったかと思えば、今度は眉間に皺を寄せて不機嫌そうにメモを取り出す……

ウィル「カメラを回してなかったのが、悔やまれるなあ……」

○○「……ウィルさんの世界は、人の怯えた顔を中心に回っているんですね」

ウィル「おっ! 君はもう僕の世界のことを理解してくれたみたいだね」

ウィルさんは、嬉しそうに私に問いかけた。

ウィル「君、お化け屋敷とかホラーハウスの類、苦手なタイプでしょ?」

○○「はい……乗り物で動くタイプのは大丈夫なんですけど、歩くのは……」

ウィル「アハハ! まさに今、歩くやつだね! 怖かったら……手、繋いであげようか?」

○○「……っ」

耳元で囁くように問われて……

○○「え、えっと……」

今しがた心臓が凍るような思いをしたばかりで、口が回らない。

ウィル「……ダメ、だったかな? 残念……! あわよくばって思ってたのに」

○○「……?」

ウィル「なんでもないよ、さあ、次に行こう」

一瞬だけ、寂しそうな顔を見せて、ウィルさんは私を撮影所のさらに奥へ案内するのだった…―。

 

 

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