映画の国・ケナル 影の月…―。
手元にある招待状を確認して、顔を上げる。
そこには街全体が大きな撮影所のようなケナルの街並みが広がっていた。
(ここがウィル監督のいるケナルの街……)
先日、彼から今撮っている映画のクランクアップがそろそろだからと、遊びにおいでと招待状を頂いた。
(どんな映画を撮っているのかな?)
どこか弾むような気分で、待ち合わせ先の撮影所に向かう。
街のいたる所で映画のロケ撮影を行っているのが、いかにも映画の街らしい。
しばらくすると…―。
遠くからスクーターのエンジン音がこちらへと近づいてきた。
ウィル「やあやあ、よく来てくれたね! 遠い所からお疲れさん」
○○「ウィル監督、こんにちは」
ウィル「おっ! 元気な笑顔だね!」
監督はそのまま、私に顔をぐいっと近づけて……
ウィル「うーん? うん、うんうん」
彼は眼鏡を外したりかけたりしながら、観察するようにじろじろと私の顔を覗きこんできた。
○○「あ、あの……?」
ウィル「うん、やっぱり元気な笑顔だ。残念ながら、血色がよすぎる」
ため息を吐きながら、ピンクの縁取りのオシャレなメガネを指先で上げる。
○○「けっ……しょく?」
(変わった人なのかな?)
瞳を瞬かせる私には構わずに、彼は陽気にスクーターの後ろを指さす。
ウィル「さ、後ろ乗って!」
○○「え? スクーターにですか?」
ウィル「そそ、編集スタジオや撮影所を行き来するのに、これが便利で!」
戸惑っていると、彼は私に左手を差し出した。
ウィル「女の子だもんね、さ、どうぞ」
○○「ありがとうございます」
見た目の割に紳士な振る舞いに、胸が小さくときめく。
少し緊張しながらスクーターの後ろに跨り、彼の背中に腕を回すと、監督はスクーターを走らせ始めた。
…
……
しばらくしてやってきたのは、広大な敷地を誇る映画の撮影所だった。
ウィル「驚くかもしれないけど、ココ。 この国の城だから!」
○○「えっ」
(お城が……撮影所!?)
ウィル「この撮影所に併設された編集スタジオで、僕、今仕事してるんだよね」
ふふんと鼻を鳴らし、監督は得意げな笑みを浮かべる。
ウィル「あと……気をつけてね」
○○「?」
ウィル「うっかりこの敷地で迷って……その後、姿を見た人はいない……」
○○「え…―」
監督の言葉に、さあっと悪寒が走る。
ウィル「なーんて……」
すると彼は私の手を引いて、にんまりと満足そうな笑みを浮かべた。
「うーん! 出会ったときよりいい顔してる!! さ、行こうか」
(なんだか……不安)
驚きと不安に満ちたウィル監督との再会……
彼と過ごすことになる数日間は、ここから始まったのだった…―。