演説の時刻になり、陽の降り注ぐバルコニーに立つと…
民の歓声と盛大な拍手が、晴れやかな笑顔と共に向けられる。
(僕の決意は、皆の笑顔を曇らせることになるかもしれない…ー)
覚悟は決めていたものの、やはり心は恐れに震えた。
これまでの僕は、王族らしく美しい言葉を選び、つねに笑顔の仮面を張りつけて…-。
完璧な王子を演じてみせることで、民は僕を信頼し、必要としてくれるのだと思っていた。
けれど、迷う僕に彼女が伝えてくれたんだ。
笑顔で民と接する僕も、裏で政治を操る僕も、全て本当の自分なのだと。
(それなら……今、僕の本当の気持ちは…-)
ミリオン「……僕は多分、お前達が思うほど、いい王子じゃない」
笑顔の仮面を外し、民に向かって飾らない言葉で語りかける。
男性「ミリオン様? いつもとご様子が違うぞ……」
突然の変化に、民は驚きを隠せないようだった。
それでも僕は、心の内をすべて見せるように、正直な思いを打ち明ける。
ミリオン「だけど、この国を豊かにしたくて……。 お前達に笑って暮らしてほしいって、心の底から思ってるのは本当」
本当の豊かさとは、なんだろう? 民にとって、そして僕にとっての本当の幸せとは……
(その答えを、やっと見つけられた…-)
王子である僕が、本当の自分を太陽の下に晒し、皆と心から語らうことができたなら。
ミリオン「これからもきっと、良い『ミリオン王子』を演じることもあるかもしれない。 けれど、お前達には、その…… この僕もちゃんと見てほしいっていうか…… だから」
言葉が、上手く紡げない。
(いつもの流暢さはどこへいった…… 情けないな)
(けど……!)
ミリオン「今までとは、態度が変わるかもしれないけど……それでもいいか?」
僕の問いかけに、民のざわめきが静まり、次の瞬間、温かな大歓声がバルコニーまで届いた。
ミリオン「皆…… ありがとう!」
一人でもがき、苦しみ続けた日々が終わろうとしていた。
今までの僕の奥深くに押し込めていた気持ちが、一気に解放されていく。
ミリオン「この国の100万の民の笑顔は、僕が保証してやる!」
そんな想いが溢れ、民の前で高らかに宣言する。
(ああ、そうだ)
ミリオン「僕はいずれ、世界一の王子になるんだからな。トロイメアの姫とも結婚して!」
今日一番の歓声が上がり、遥か遠くの空まで響き渡る。そんな中、僕は○○をちらりと盗み見る。
(ふふ……)
予想通り、彼女は空いた口が塞がらないようだった…-。
…
……
その後、僕は○○を庭園に誘った。
(演説の後は、公務が重なってゆっくり話せなかったからな)
先ほどの幸せな余韻が、今も心に広がっている。
○○「ミリオンくん、さっきの話だけど……」
その時、不意に○○が話を切り出した。
(やっぱり、来たか)
僕は得意の笑顔を浮かべ、当然のように話を続ける。
ミリオン「ああ、結婚の話? ○○も嬉しいだろ」
トロイメアの姫を手中に納めることは、当初から予定していた。
けれど、それはこの国を強くするための国策で…-。
(本気で彼女を欲しいと思うなんて、想定外だったけど)
内心苦笑しつつ、早速民の前で心の内を晒して見せたのだった。
○○「結婚なんて、そんな約束した覚えは……っ」
この展開も予想通りで、僕は彼女の反論を軽く受け流す。
ミリオン「何? ○○って、ちゃんと言葉にしてほしいタイプ?」
○○「えっ……?」
ミリオン「わかったちゃんとやればいいんだね」
有無を言わさず、僕は○○の前で片膝をついた。
ミリオン「○○姫…… どうかこの僕と結婚してください」
出会った時と同じく、流れるように言葉を紡ぎ、彼女のもとへと届ける。
けれど今、僕の言葉に嘘偽りはかけらもなかった。
(ずっと傍にいてほしいのは、君だけだ)
世界でただ一人…… 僕が心から愛する人。
○○の腰に腕を回し、そっと胸元へ抱き寄せる。
ミリオン「姫…… 貴方がいてくれるからこそ、僕は僕でいられます。 どうかこれからも、僕の傍にいてくださいますか?」
○○の返事を待つ間、痛いほどに脈打つ鼓動を感じた。
(早く、返事を…-)
彼女のことになると、僕はこんなに余裕を失くしてしまうのか。
けれど、それも本当の自分に違いはない。
ミリオン「……○○、返事は?」
少し急かすように、彼女の耳許に問いかけると。
○○「はい…… 貴方の傍にいます」
恥ずかしそうに頬を染め、彼女が甘やかな笑みを返した。
(嬉しい…-)
彼女と想い合えた喜びが、心の底まで染みわたる。
自然に笑みがこぼれ、○○を抱く腕に力がこもった。
○○は瞳を潤ませ、僕を真っ直ぐに見つめている。
(まったく、可愛すぎ……)
ミリオン「そんな隙だらけの顔してると……キスするよ?」
はっとしたように、○○が体を離そうとする。
逃がすまいと追いかけ、吐息が混じるまで近く顔を寄せた。
(どんなに伝えても、きっと足りない)
(僕の、心からの言葉を君に……)
ミリオン「……ありがとう、○○」
言葉にできない、胸いっぱいの想いを、唇へ乗せて……
彼女の髪に指を絡め、陽だまりの中で幾度も甘くキスを交わした…-。
おわり。