それから数日後…-。
ミリオンくんは国中にお触れを出し、国民を城の庭園に招いた。
(これから何が始まるんだろう……?)
ミリオン「皆さん、今日はお集まりいただき、ありがとうございます」
バルコニーに立ったミリオンくんが、よく通る声で皆に語りかける。
ミリオン「今日は皆さんに、どうしてもお話したいことがあります」
ミリオンくんはそこで言葉を句切ると……
もう一度、深く息を吐き……静かに微笑んだ。
ミリオン「……僕は多分、お前達が思うほど、いい王子じゃない」
突然ミリオンくんの口調が変わり、驚いた国民達がざわめき始める。
ミリオン「だけど、この国を豊かにしたくて……。 お前達に笑って暮らしてほしいって、心の底から思ってるのは本当」
皆は驚きながらも、真摯な様子でミリオンくんの話に耳を傾けている。
ミリオン「これからもきっと、いい『ミリオン王子』を演じることもあるかもしれない。 けれど、お前達には、その……この僕もちゃんと見て欲しいっていうか……だから」
とても照れくさそうに、ミリオンくんが口を開く。
ミリオン「今までとは、態度が変わるかもしれないけど……それでもいいか?」
不器用だけれど、今までで一番誠実な、ミリオン王子の思いに触れて……
男性「もちろんですとも!どんなミリオン様でも、信じてついて行きます!」
若い女性「あははっ、ミリオン様、照れちゃって可愛い~」
一層の親しみを込めて、民がミリオンくんに語りかける。
始めは戸惑っていた国民達も、彼に心を突き動かされたようだった。
(ミリオンくん……本当によかった)
ミリオン「皆……、ありがとう!」
ミリオンくんが、星屑を散らしたようなまばゆい笑顔を浮かべる。
(皆、このキラキラな笑顔の虜になっちゃうんだろうな……)
ミリオンくんの後ろに控え、微笑みながら見守っていると…-。
ミリオン「この国の100万の民の笑顔は、僕が保証してやる! 僕はいずれ、世界一の王子になるんだからな。トロイメアの姫とも結婚して!」
(えっ……!?)
そのとたんに、庭園から大歓声が沸きあがる。
(聞き間違いかな? 今、結婚って聞こえたような……)
ミリオンくんの口から飛び出した言葉に、私は自分の耳を疑ってしまうのだった…-。
…
……
演説の後、私はミリオンくんに誘われ、庭園を訪れていた。
辺りは陽の光を浴びて明るく、庭に咲く花々がほのかに甘く香る。
〇〇「ミリオンくん、さっきの話だけど……」
ミリオン「ああ、結婚の話? 〇〇も嬉しいだろ」
ミリオンくんは少しも悪びれることなく、あっけらかんと笑ってみせる。
〇〇「結婚なんて、そんな約束した覚えは……っ」
慌ててミリオンくんに詰め寄ると……
ミリオン「何? 〇〇って、ちゃんと言葉にしてほしいタイプ?」
〇〇「えっ……?」
ミリオン「わかった、ちゃんとやればいいんだね」
そう言って、ミリオンくんが私の前に片膝をつく。
ミリオン「〇〇姫……どうかこの僕と結婚してください」
プロポーズの言葉を添えて……
ミリオンくんは、これまでで一番綺麗な笑みを浮かべた。
(今、そんな笑顔を見せるのは、ずるい……)
あまりの美しさに見惚れ、軽いめまいに襲われる。
すると……
ミリオンくんは私の手を取ったまま立ち上がり、そっと腰を引き寄せた。
(あっ……)
彼がまとう甘い香りが鼻先を掠め、心臓が更に脈を速めた。
ミリオン「姫……貴方がいてくれるからこそ、僕は僕でいられます。 どうかこれからも、僕の傍にいてくださいますか?」
ミリオンくんの言葉が、私の胸に真っ直ぐ届く。
(ずっと、ミリオンくんの傍に……?)
煌めく笑顔を振りまいて、皆に穏やかな癒しを与え、かと思えば、驚くほど大胆に迫り、私の心を強引に奪い去ってしまう。
だけど……
(本当は寂しがりやで、不器用で……)
笑顔の裏で、私の返事をドキドキしながら待っている――?
ミリオン「……〇〇、返事は?」
そんな彼を思うと……私の心の中の一番柔らかい部分に、今まで気づかなかった、温かな感情が芽生えていることを知った。
(私も、ミリオンくんの傍にいたい)
〇〇「はい……貴方のお傍にいます」
私ははにかみながら、ミリオンくんにそっと微笑みかける。
ミリオン「〇〇……」
ミリオンくんは嬉しそうに笑うと、ふいに顔を近づけた。
ミリオン「そんなに隙だらけの顔をしてると……キスするよ?」
(えっ……!)
慌てて身体を引くと、追いかけるように顔を寄せたミリオンくんの吐息が、私の唇を掠めた。
ミリオン「……ありがとう、〇〇」
(ミリオンくん……)
まるで、私達を祝福するかのように、庭園を吹き抜ける風が柔らかく頬を撫でていく…-。
ミリオンくんの優しい腕に包まれながら、彼のすべてが愛おしく思えたのだった…-。
おわり。