予定していた公務をすべて中止し、ミリオンくんの部屋へ戻ってきた。
ミリオン「痛むか……?」
〇〇「もう大丈夫です。お医者様も、痕は残らないだろうと仰っていましたし」
心配そうなミリオンくんに、私は笑顔をみせる。
ミリオン「そうか……」
(あの女性も、本気で彼を傷つけようとしたんじゃないんだろうな……)
ミリオン「あの時……民の前で、お前がああ言ってくれなかったら」
そう言いかけて、ミリオンくんの表情が重く陰る。
ミリオン「……なあ、お前にはわかるか?」
〇〇「え……?」
ミリオンくんは、包帯を巻いた私の手を取り、柔らかく包み込んだ。
ミリオン「本当の僕は、どこにいるんだろうな……」
力なくつぶやきながら、ミリオンくんが長いまつ毛を伏せる。
ミリオン「この数日間……お前といると気が楽だった。きっとこれが、本当の僕なんだと思った。 それをお前も受け入れてくれたから……ほっとしていた」
〇〇「ミリオンくん……」
ミリオン「けど……今日、僕を信頼してくれてる皆の笑顔を見て……。 国を……民を豊かにするためには、あの張りついた笑顔だって必要なんだって、そう思った……。 僕は……本当の僕は……」
(本当の、ミリオンくんは……)
私はミリオンくんの手を握り返し、そっと瞳を覗き込む。
〇〇「本当のミリオンくんは、ここに……今、私の目の前にいます」
ミリオン「〇〇……?」
ミリオンくんの澄んだ瞳が、躊躇うように私を映した。
〇〇「どんなミリオンくんも……本当のミリオンくんですよ」
ミリオン「っ――」
ミリオンくんは、はっとしたように目を見張り……
やがて静かに微笑みながら、私の手を優しく握り返す。
ミリオン「ああ……そうか。そうだな」
(ミリオンくん……)
子猫「にゃあ~」
子猫がやって来て、ミリオンくんの足元に頬を摺り寄せた…-。