とっさにミリオンくんを庇い、飛び出すと……
怯んだ女性のナイフが、私の腕を掠めた。
〇〇「っ……!」
ミリオン「〇〇ッ――!!」
ミリオンくんが私の肩を抱き、ひどく焦った様子で傷を確かめる。
ミリオン「大丈夫か、怪我は……!」
〇〇「平気です、少し掠めただけですから……」
ナイフの切っ先が当たり、破れた袖を押さえる。
ミリオン「隠すな」
ミリオンくんは私の手を外すと、そこに薄く滲んだ血を見るなり、苦しげに眉根を寄せた。
女性「自業自得よ……! この国の人間は、みんなこの男に騙されてる!」
女性は護衛に取り押さえられながら、なおも興奮して叫び続ける。
男性「騙されてるって、どういうことだ……?」
若い女性「まさか、あのミリオン様が人に恨みを買うなんてこと……」
人々は不安な表情を浮かべ、にわかに動揺が広がる。
(このままじゃ、ミリオンくんが誤解されてしまう……)
国を立て直すため、きわどい外交を繰り返してきたとしても……
この国を思うミリオンくんの気持ちは本物だと、私はよく知っていた。
(この国の人々にだけは、そのことをわかってほしい……)
〇〇「ミリオン王子は、皆さんを騙してなどいません……!」
私は声を振り絞り、人々に語りかける。
〇〇「彼は誰よりもこの国を愛し、民を思い……その身にすべてを引き受けて、この国を守っている人です」
(どんなにつらい時でも、決して笑顔を絶やさずに……)
この国を慈しみ、いつも心を寄り添わせている。
ミリオン「〇〇……」
すると…-。
男性「そうだ! ミリオン王子はいつだって、俺達の暮らしを一番に考えてくださっている!」
年配の女性「ええ……ミリオン様のおかげで貧しい時代は去り、今の豊かな暮らしがあるのです」
皆、口々にミリオンくんへの感謝を伝え始めた。
ミリオン「皆さん……ありがとうございます……」
ミリオンくんは静かに微笑むと、皆さんに美しく礼を返し…-。
〇〇「っ……!?」
意外なほど逞しい腕で、私を軽々と抱き上げてしまった。
ミリオン「予定はすべて中止だ。すぐに城へ戻ろう」
ミリオンくんは私を抱え、人目を避けるように車へと向かう。
〇〇「あの、私、自分で歩けますっ……!」
ミリオン「いいから……黙って抱かれてろ」
私にだけ聞こえるように、そう耳許で囁く。
(ミリオンくん……?)
彼の瞳には、戸惑いが色濃く映しだされていた…-。