そして迎えた、晩餐会の日…-。
ミリオン「来賓に挨拶しないと。〇〇も一緒に来て?」
ミリオンくんは片時も私を傍から離さず、各国の来賓と歓談を続けた。
大臣「ミリオン様の華々しいご活躍は、世界に轟いておりますよ」
ミリオン「ありがとうございます。このトロイメアの姫君に救われていなければ、どうなっていたことか……」
そう言いながら、ミリオンくんは私の腰へ親しげに腕を回す。
(えっ、ミリオンくん……?)
大臣「ほう……我が国よりも、先にトロイメアと協定をお考えで……?」
その時だった。
女性「ミリオン様……!」
他国の姫と思わしき女性が、わなわなと震えながらミリオンくんを睨みつけていた。
ミリオン「……」
女性「ひどいですわ……この間は、私だけだと仰っていたのに」
女性はこちらまで歩いてきて、私に鋭い視線を向けた。
女性「トロイメアの姫君ですって? 立場を利用し、ミリオン様に取り入ろうとしているのではなくて?」
〇〇「そんな…-」
すると、ミリオンくんが私と女性の間に立ちはだかった。
ミリオン「……これはこれは、ようこそ起こし下さいました」
ミリオンくんは女性の手を取り、そっと指先に口付ける。
ミリオン「……後でゆっくりお話しましょう?」
ミリオンくんに甘い笑みを向けられると、女性は黙って頷き、その場を立ち去った。
(今のは……?)
突然のことに呆然としていると、ミリオンくんが笑顔で私に向き直った。
ミリオン「さあ、〇〇。壇上で皆さんにご挨拶しようか」
(大丈夫なのかな……?)
彼女のことが気になりつつも、私はミリオンくんに促され壇上へと足を踏み出した…-。
…
……
晩餐会の後、私はミリオンくんの執務室を訪れた。
(借りていたネックレス、早く返さないと)
執務室の前に立つと、扉が僅かに開いていることに気づいた。
ミリオン「――至急、トゥラム国への書状を出せ」
部屋の中から、ミリオンくんが従者に指示を出す声が漏れ聞こえてくる。
ミリオン「トゥラム国の姫が晩餐会で無礼を働き、トロイメアの姫が著しく名誉を傷つけられた。 よって、我が国から賠償金の請求を……」
(え……?)
ミリオン「ああ。後……メスキナ国の大臣は僕のことをいたくお気に召している。 これに乗じて自由貿易協定を反故とし、関税を引き上げても問題ない」
書類に目を落としたまま、ミリオンくんが冷たく言い放つ。
(どういうこと……?)
ミリオン「……そこに誰かいるのか」
(あっ……)
私はゆっくりとドアを開け、姿を見せる。
ミリオン「〇〇……」
ミリオンくんは私を見つめ、訝しげに目を細めた。
ミリオン「下がれ……また後で呼ぶ」
従者を下がらせると、ミリオンくんは私の手首を掴み、執務室へと引き入れた。
ミリオン「こんな夜更けに、どうしたの?」
尖った声でそう訊ねられ、私は……
(どうしよう、何も言葉が出て来ない……)
先ほどのミリオンくんに圧倒され、私は黙ってうつむいた。
ミリオン「ああ……賠償金のこと? それとも協定を破ろうっていう話かな」
〇〇「……本当にミリオンくんが?」
ミリオン「うん、正当な権利だからね」
ミリオンくんは私に向かって、張りついたような笑顔を浮かべる。
ミリオン「法に触れるようなことはしてないよ。これもすべて、国の財政を守るためだ」
(そんな言い方……)
それはまるで、私の知らないミリオンくんのようで……
言い様のない不安が胸を塞ぎ、心臓が重く脈打つ。
〇〇「でも……そんなやり方は、ミリオンくんらしくない気がします」
言葉に詰まりながら、そう伝えると……
ミリオン「僕らしくない……?」
そうつぶやいた、次の瞬間…-。
ミリオンくんが私の肩を押し、背後の壁に打ちつけた。
〇〇「っ……!」
追いつめた壁の両側に勢い良く手をつき、私を腕の中に閉じ込める。
ミリオン「お前を見てると――苛々する」
ミリオンくんは私を鋭く睨みつけ、吐き捨てるようにつぶやいた…-。