暗く冷たい雨が、中庭に振り続ける…-。
ミリオン「……」
〇〇「ミリオンくん……」
ミリオンくんの冷たい瞳に射抜かれ、続く言葉を失ってしまう。
ミリオン「……ああ、〇〇」
ミリオンくんはふっと目を細めると、いつものように明るく笑った。
〇〇「あの……」
ミリオン「帰りが遅くなったから、迎えに来てくれたんだね」
私の言葉を遮るように、ミリオンくんが言葉を重ねる。
ミリオン「ここは寒いから、もう行こうか」
そう言って、ミリオンくんが足元の子猫に背を向けた。
〇〇「でも……。 子猫はいいんですか?」
ミリオンくんの背中に、そう尋ねると…-。
ミリオン「……早く。風邪を引いてしまう」
すげなく答えると、ミリオンくんは私を置いて足早に歩き出した。
〇〇「あっ……」
子猫「にゃぁー……」
か弱い鳴き声を残し、子猫は茂みの中に逃げてしまった。
(あの子猫、大丈夫かな……)
後ろ髪引かれながらも、私はミリオンくんの背中を追いかけた…-。
…
……それから、数日後…-。
ミリオン「〇〇、今日はどの辺りを回ろうか?」
〇〇「あ、そうですね……」
ミリオン「よかったら歌劇場に行かない? ぜひ君に観せたいオペラがあるんだ」
あの雨の日のことなど、まるで何もなかったかのように、ミリオンくんはいつも通り、優しい笑顔を見せてくれる。
(いつもと少し様子が違うように見えたけど……)
(あの日のことは、私の気のせいだったのかな)
ミリオン「そうだ、〇〇にこれを」
話の途中で、ミリオンくんが取り出したのは……
〇〇「ネックレス……?」
ベロアボックスを開いた瞬間、大粒のダイアモンドがまぶしく煌めいた。
豪華な宝石を前にして、思わず目を見張る。
ミリオン「近々、諸外国を招いた晩餐会があるんだ。 〇〇のために、ドレスを用意したから……」
ネックレスを手にしたミリオンくんが、私の背後に回る。
(え……?)
私の髪をそっと片方の肩に流すと、少し冷たい指先が首筋に触れ、ずしりと重いダイアモンドのネックレスが私の首にかけられた。
ミリオン「うん、よく似合ってる」
二人で鏡の前に立つと、私は……
〇〇「でも、こんな高価なものをいただくわけには……」
鏡越しにミリオンくんを見つめ、私は言葉を詰まらせた。
ミリオン「どうして? 僕の気持ち、受け取ってくれないの?」
ミリオンくんの瞳に、寂しげな色が浮かぶ。
〇〇「気持ちなら、もう充分受け取っています。この国に来てから、とてもよくしてもらって……」
ミリオン「でも、そんなんじゃ全然足りないでしょ?」
(え……?)
彼は笑顔のままなのに、その声はわずかな苛立ちを含んでいるように聞こえた。
ミリオン「君のためにできることは、なんだってしたいんだ」
(ミリオンくん……)
ミリオンくんの真摯な申し出に、どうしても強く断ることができなかった。
〇〇「それじゃ、晩餐会の日だけ、お借りしますね……?」
ミリオン「そんなこと言わずに、受け取って? よく似合ってるよ、〇〇――」
有無を言わさぬ雰囲気に戸惑いながら、私は曖昧に頷いた…-。