第3話 庭園の子猫

降りしきる冷たい雨の中…-。

ミリオン「……」

ミリオンくんはぼんやりと空を見上げ、その場に立ち尽くしていた。

(ミリオンくん……?)

彼の美しい瞳が仄暗い陰りを帯びたように見えて、一瞬、声をかけるのがためらわれた。

〇〇「あの、ミリオンくん……?」

ミリオン「っ……」

私の呼びかけに、ミリオンくんがはっとしたように我に返る。

ミリオン「……ごめん、ぼんやりしちゃった。 急に振ってきたね。〇〇は先に城へ戻って」

ミリオンくんは上着を脱ぐと、雨から守るようにして、私の頭に掛けてくれる。

〇〇「でも、ミリオンくんは……」

ミリオン「僕はこのまま視察を続けるよ」

雨に打たれながら、ミリオンくんは綺麗な笑みを浮かべた。

(でも……)

〇〇「それなら、私も一緒に……」

何故か、今はミリオンくんを一人にしたくないと思った。

ミリオン「〇〇は優しいね。 ……大丈夫、気にしないで」

私の手を包むように触れ、ミリオンくんが口を開いた。

ミリオン「僕に付き合って、〇〇が風邪を引くといけないから。 急ごう、通りに車を待たせてある」

ミリオンくんは私の手を取り、雨の中を駆け出した…-。

……

(ミリオンくん、遅いな……)

夜になっても、ミリオンくんはまだ城へ戻っていなかった。

今も雨は鳴り止まず、客間の窓ガラスを強く打ちつけている。

(視察を続けるって言っていたけど、大丈夫か……)

窓の傍に寄り、そっと外の様子を眺めた。

すると……

ミリオン「……」

(あそこにいるのは、ミリオンくん……?)

城の庭園で、傘も差さずに立っているミリオンくんの姿を見つけた。

(大変……!)

石畳に弾いた雨が、私の足元を冷たく濡らす。

従者さんに傘を借り、急いで宮殿裏の庭園までやってきた。

ミリオン「……」

(ミリオンくん……!)

彼の名を呼ぼうとした時、その足元に目が止まった。

子猫「にゃぁ……」

(あれは、子猫……?)

アーモンドのように丸い目をした一匹の子猫が、ミリオンくんをじっと見つめていた。

小さな体はしとどに濡れそぼり、微かに震えている。

ミリオン「……」

ミリオンくんは子猫を見下ろすように、黙ってその場に佇んでいる。

雨に濡れた彼の前髪は目に深くかかり、その表情がうかがえなかった。

(どうしたんだろう……ミリオンくんも子猫も、このままじゃずぶ濡れに……)

〇〇「ミリオ…-」

ミリオン「……ろ」

(え……?)

ミリオン「……鳴いて媚びてみせろ」

雨音に紛れて、絞るような低い声が耳に届いた。

(え……ミリオンくん……?)

ミリオン「自分で切り開かないと、人生は変わらない。 そんなふうに……一生、惨めなままだ」

そうつぶやいたミリオンくんの目が、冷たく細められる。

美しい庭園の景色が、雨の雫に流れて、色を失くしていくようだった。

私は何も言わずミリオンくんの傍に歩み寄り、雨に濡れるミリオンくんに、そっと傘を差しかけた。

ミリオン「……!」

私に気づいたミリオンくんが、ゆらりと顔を上げる。

彼の冷え切った瞳が、私を静かに見据えた…-。

 

 

 

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