降りしきる冷たい雨の中…-。
ミリオン「……」
ミリオンくんはぼんやりと空を見上げ、その場に立ち尽くしていた。
(ミリオンくん……?)
彼の美しい瞳が仄暗い陰りを帯びたように見えて、一瞬、声をかけるのがためらわれた。
〇〇「あの、ミリオンくん……?」
ミリオン「っ……」
私の呼びかけに、ミリオンくんがはっとしたように我に返る。
ミリオン「……ごめん、ぼんやりしちゃった。 急に振ってきたね。〇〇は先に城へ戻って」
ミリオンくんは上着を脱ぐと、雨から守るようにして、私の頭に掛けてくれる。
〇〇「でも、ミリオンくんは……」
ミリオン「僕はこのまま視察を続けるよ」
雨に打たれながら、ミリオンくんは綺麗な笑みを浮かべた。
(でも……)
〇〇「それなら、私も一緒に……」
何故か、今はミリオンくんを一人にしたくないと思った。
ミリオン「〇〇は優しいね。 ……大丈夫、気にしないで」
私の手を包むように触れ、ミリオンくんが口を開いた。
ミリオン「僕に付き合って、〇〇が風邪を引くといけないから。 急ごう、通りに車を待たせてある」
ミリオンくんは私の手を取り、雨の中を駆け出した…-。
…
……
(ミリオンくん、遅いな……)
夜になっても、ミリオンくんはまだ城へ戻っていなかった。
今も雨は鳴り止まず、客間の窓ガラスを強く打ちつけている。
(視察を続けるって言っていたけど、大丈夫か……)
窓の傍に寄り、そっと外の様子を眺めた。
すると……
ミリオン「……」
(あそこにいるのは、ミリオンくん……?)
城の庭園で、傘も差さずに立っているミリオンくんの姿を見つけた。
(大変……!)
石畳に弾いた雨が、私の足元を冷たく濡らす。
従者さんに傘を借り、急いで宮殿裏の庭園までやってきた。
ミリオン「……」
(ミリオンくん……!)
彼の名を呼ぼうとした時、その足元に目が止まった。
子猫「にゃぁ……」
(あれは、子猫……?)
アーモンドのように丸い目をした一匹の子猫が、ミリオンくんをじっと見つめていた。
小さな体はしとどに濡れそぼり、微かに震えている。
ミリオン「……」
ミリオンくんは子猫を見下ろすように、黙ってその場に佇んでいる。
雨に濡れた彼の前髪は目に深くかかり、その表情がうかがえなかった。
(どうしたんだろう……ミリオンくんも子猫も、このままじゃずぶ濡れに……)
〇〇「ミリオ…-」
ミリオン「……ろ」
(え……?)
ミリオン「……鳴いて媚びてみせろ」
雨音に紛れて、絞るような低い声が耳に届いた。
(え……ミリオンくん……?)
ミリオン「自分で切り開かないと、人生は変わらない。 そんなふうに……一生、惨めなままだ」
そうつぶやいたミリオンくんの目が、冷たく細められる。
美しい庭園の景色が、雨の雫に流れて、色を失くしていくようだった。
私は何も言わずミリオンくんの傍に歩み寄り、雨に濡れるミリオンくんに、そっと傘を差しかけた。
ミリオン「……!」
私に気づいたミリオンくんが、ゆらりと顔を上げる。
彼の冷え切った瞳が、私を静かに見据えた…-。