謁見の後は、ミリオン王子が自らこの国を案内してくれることになった。
〇〇「お忙しいのに、付き合ってもらっていいんですか?」
ミリオン「もちろん。〇〇はこの国の大切なお客様なんだから。 王子である僕が案内するのは、当然のことだよ」
そう話しながら、ミリオン王子は無邪気に目を細める。
〇〇「ありがとうございます、ミリオン王子」
ミリオン王子と目を合わせ、にこやかに笑みを交わした。
ミリオン「話し方、まだちょっと固いね、 そうだ。〇〇、僕のことはミリオンって呼んで?」
どこか甘えるように問われ、私は……
〇〇「でも……いいんですか?」
戸惑いつつ、ミリオン王子に確かめる。
ミリオン「うん。その方が、仲良しな感じがするから」
(可愛い……)
〇〇「それじゃ……ミリオンくん?」
ミリオン「うん、その方がいい」
照れ混じりに呼びかけると、ミリオンくんは満足そうに頷いてくれた。
ミリオン「〇〇には、この国の素晴らしさをもっと知ってほしいんだ。 ほら、見て……」
ミリオンくんは私の背にそっと触れると、顔を近くに寄せた。
(あっ……)
ふいに近づいた距離に、胸がゆるく鼓動を打ち始める。
ミリオン「ここをまっすぐ行くと、世界中の商店が立ち並ぶメインストリートに繋がってる」
そう言いながら、ミリオンくんは街路樹の植えられた美しい街並みを指差す。
その大通りは、見るからに高級そうな商店や、美しいブランドロゴを掲げた店が軒を連ねていた。
(都会的で、洗練されていて……聞いていた通り、すごく豊かな国なんだ)
道行く人達の様子からも、この国で恵まれた暮らしを営んでいることがうかがえた。
〇〇「皆、穏やかで幸せそうで……素敵な国ですね」
ミリオン「〇〇にそう言ってもらえると、嬉しいよ」
(ミリオンくんのこの笑顔も、とても幸せな気持ちにしてくれるし)
男性「これはミリオン王子! 今日もご視察ですか?」
街を行く人々が、ミリオンくんの姿を見つけて気さくに話しかけて来た。
ミリオン「ええ。今日はお忍びなので、内緒ですよ?」
男性に向かい、ミリオンくんは穏やかに微笑んでみせる。
女性1「ミリオン王子! やっぱりカッコイイ……!」
女性2「いえ、いつ見ても可愛らしいわ!」
男性「ミリオン様には、本当に感謝してもしきれません!」
皆は口々に、ミリオンくんへの熱い思いや感謝を伝える。
ミリオン「僕の力なんて、微々たるものです。皆さんの努力あってこそですよ」
(すごい……こんなに国民の皆さんに慕われていて)
皆の話を真摯に聞くミリオンくんの横顔を、私は隣でにこやかに見つめていた…-。
…
……
その後もミリオンくんの案内で、この国の観光名所を巡っていると…-。
(あれ……?)
日が陰り、急に空が暗くなり始めた。
間もなく冷たい雨粒が降り注ぎ、ぽつぽつと地面を濡らし始める。
〇〇「ミリオンくん、雨が……」
勢いを増す雨に、慌ててミリオンくんを振り返ると…-。
ミリオン「……」
(ミリオンくん……?)
ミリオンくんは冷たい雨に打たれながら、黙って空を見上げていた。
その瞳は、どこか空虚さをたたえている気がした…-。