太陽が傾きかけ、頬を撫でる風は一層冷たくなっていく…―。
(顔が熱い……)
そんな中、私は火照る頬を押さえ、どうにか鼓動を落ち着けようとしていた。
フロスト「どうした? まだ大凶が不安なのか?」
(そうじゃなくて……)
答えられずにいると、子ども達が私達の間に割り込んで来た。
(さっきの子達……?)
子ども「お兄ちゃん、餅つき一緒にやろうよ」
すっかりフロストさんに懐いたのか、子ども達はフロストさんの袖を引く。
フロスト「待て。今は大事な話をしてるんだ」
子ども「え~。でもさ、餅つきはじまっちゃうぜ」
フロスト「先に行っていろ。気が向いたら行く」
子ども「新年の餅つきはなー、厄除けなんだぞ! やらなきゃ損なんだぞ!」
子どもは尚も食い下がる。
フロスト「……」
フロストさんは、ちらりと私を見つめ、勢いよく立ち上がった。
フロスト「……いいだろう。大凶をこれで完璧に払ってくれる」
フロストさんは、子ども達に連れられ、道の反対側へと歩いていった。
フロスト「よし、来い」
フロストさんは、自信満々にお餅をつく。
子ども達「お兄ちゃん、うまいじゃん! がんばれー」
ようやく胸の高鳴りがおさまり、私も傍へと駆け寄った。
○○「フロストさん、頑張ってください」
フロスト「……何故俺がこんなことを」
そう言いながらも、フロストさんはリズムよくお餅をついていく。
○○「フロストさん、わたしがお水をつけますね」
フロスト「やめろ! 手を打ったらどうするんだ!」
子ども達「打たないようにつくんじゃーん」
○○「はい」
子どもの真似をしてお水をつけると、フロストさんが目に見えて汗をかく。
フロスト「……!」
子ども達「うまいじゃん、その調子」
○○「フロストさん、その調子です」
フロスト「……お前、あとで覚えておけよ」
○○「え……」
…
……
そんなこんなで、どうにかお餅がつきあがる。
お餅をついた本人であるフロストさんは、道端で一人荒い息を整えていた。
○○「お疲れ様です」
お水を差し出すと、フロストさんが私の手を握り引き寄せる。
フロスト「……もう、これで大凶のことはいいな?」
○○「え? あ、はい!」
フロスト「疲れた……」
フロストさんはお水を一気に飲み干し、私の手をまじまじと見つめた。
フロスト「お前が水係をやらなければ、こんなに疲れなかったんだ。怪我をさせたらと思う身にもなれ」
手早く私の手を点検すると、フロストさんはもう一度大きく息を吐く。
○○「すみません。でも、きっとこれを食べたら疲れも吹き飛びますよ。 美味しそうです」
お餅の載ったお皿を差し出すと、フロストさんはそれを受け取らず、大きく口を開けた。
○○「え?」
フロスト「……疲れて手が上がらないんだ。食べさせろ」
(恥ずかしい……けど)
○○「はい……どうぞ」
小さく切ったお餅を彼の口に入れる。
フロストさんは満足げに頷き、お餅を噛み下した。
フロスト「美味いな。 だが……」
次の瞬間……
○○「……っ」
フロストさんの腕が伸び、私の腰を抱き寄せる。
腕の中にすっぽりと私をおさめると、フロストさんは余裕たっぷりに私を見下ろした。
フロスト「こっちの方が、疲れが吹き飛ぶようだ」
○○「……!」
フロスト「しっかり俺しか見えないようにしておかないと、お前はどうやら余所見をするらしいからな。 しばらく、このままでいろ……まあ、厄除けとやらも、悪くないな」
言葉とは裏腹に、私を抱きしめるフロストさんの腕はとても優しくて……
(胸が……)
めまいを感じるほどのときめきとともに、私の『穏やかな新年』は過ぎていくのだった…―。
おわり