木枯らしが枯葉を巻き上げ、私達の間を通り抜けていく…―。
フロスト「アンコなしのダンゴとやらも、悪くはない」
あんこなしのお団子を食べ終えたフロストさんが、微笑みを浮かべる。
フロスト「これはこれでなかなか美味かった」
(よかった)
ホッとして、私はそっとため息を吐く。
フロスト「さて、宿へ帰るとするか」
(まだ穏やかな新年を楽しんでもらったとは言えないけど、今日はもう帰った方がよさそうだよね)
フロストさんに手を引かれて歩いて行くと、来る時に渡った橋に人が集まっている。
フロスト「何かあったのか?」
○○「張り紙がしてありますよ。橋が壊れ、臨時修繕中。しばらくお待ちください……」
読み終わると同時に、思わずフロストさんの顔を見上げた。
(確か、あの橋以外に向こう岸に渡る道は、ずっと遠くだったような……どうしても、楽しんでもらえないのかな。悲しいし、何だか申し訳ない……。私がお芝居の時に一人で舞い上がって余計なことばかり言ったから……)
ここまで来ると自分のせいでこうなったような気までしてきて、悲しい気持ちになった。
その時…―。
フロスト「……大凶とやらも、なかなかいいところがある」
○○「え?」
フロストさんは、意外なことに、穏やかな声でそう口にした。
顔にはどこか嬉しそうな笑みまで浮かべている。
フロスト「橋が壊れたから、お前ともう少しここにいられる」
○○「フロストさん……」
フロスト「日が暮れる前にと思っていたのだが、どうやら心の中を天に見透かされていたのかもしれない。本当は、もう少しお前とここにいたかった」
そう言うと、フロストさんは私の瞳を真っ直ぐに見つめる。
フロスト「とても、楽しかったからだ」
○○「……!」
フロスト「それに……無様なところばかりを見せてしまったからな……挽回させろ」
フロストさんが少し小さな声でそう言って、私は思わず笑ってしまった。
○○「格好悪くなんてなかったですよ」
ー----
フロスト「俺の隣で他の男に視線を奪われる女など、初めてだ。お前、気は確かか?」
ー----
○○「私……嬉しかったです」
(誤解とは言え、やきもち焼いてもらえるなんて、思わなかったから……)
思い出して思わず笑うと、フロストさんは、私の髪をそっと撫でる。
フロスト「あれは、忘れろ。俺が、お前が目を離したくないと思うような男だと、これから証明すればいいだけの話だ」
○○「フロストさん……」
暮れかけの太陽が、フロストさんの白銀の髪を透かす。
私はその端正な横顔から目をそらすことができず、ただただ彼を見つめていた。
(何か、言わなきゃ……)
必死に頭を巡らせて、はっと思いつく。
(確か、悪いおみくじは木とかに結ぶといいんだよね。フロストさんの大凶のおみくじ……)
フロスト「何をしている?」
木の枝に手を伸ばしていると、フロストさんが私の顔を覗き込む。
○○「おみくじを木に結ぶと、そのおみくじとの縁が切れるって聞いたことがあって。フロストさんは楽しかったって言ってくれましたけど、私、実は……『穏やかな新年』をフロストさんに楽しんでもらうんだって、思ってたんです。でも、大凶を引いてからは穏やかじゃなかったから……」
(届かない……)
どんなに背伸びをしても、木の枝には手が届かない。
すると…―。
フロストさんが腕を伸ばし、枝を私の目の前まで下ろしてくれた。
フロスト「興味深い風習だな……礼を言う」
○○「!」
フロストさんの声はどこまでも優しく私の耳元で響く。
いつも少し威圧感のあるフロストさんのお礼の言葉に、息が止まりそうになった。
○○「いえ……こんなことしかできなくて」
手がかじかんだのか、フロストさんとの距離に緊張しているのか、私はおみくじを結ぶことができない。
○○「あれ……?」
その時……
フロスト「○○」
振り向くと、フロストさんは風のように私の唇を奪った……
○○「……っ」
突然のキスに、抑えようもなく胸が高鳴る。
フロスト「……俺にはこれが何よりの幸運だ」
優しくそう言うと、フロストさんは私の顎をつかまえ、今度はゆっくりと唇を重ねた。
(こんな幸運なら、いくらでもあげたい……)
とろけそうな幸福を感じながら、私は彼の腕に抱きしめられたことを感じる。
私は、寒さも感じないほどに、幸福で満たされていた…―。