第5話 やきもち

舞台の幕が降りる…―。

私の隣で腕組みをしていたフロストさんが、一つ大きなため息を吐いた。

フロスト「……」

(フロストさんが教えてくれなかったところは、意味はわからなかったけど)

(フロストさんが遠くてドキドキも遠のいた分、目で楽しめたな)

○○「フロストさん、すごく楽しかったですね」

フロスト「……帰るぞ」

フロストさんは、私に答えることなく席を立つ。

帰る人々に挨拶をしていた役者さんが、私達にも丁寧に頭を下げてくれた。

(あの盗賊の役者さんだ)

役者「おや、こんな立派な旦那とお嬢さんにいらしていただけて、今年は縁起がいいや。 どうでした? お気に召しましたでしょうかね」

握手を差し伸べられ、私はその手を取ろうとする。

○○「はい、とても素敵で…―」

手が触れる直前、フロストさんにその手を掴まれた。

(フロストさん?)

フロスト「素晴らしい公演だった。新年早々、いいものを見せてもらった。 これは俺の大切な姫でね。体が冷えるといけないので、失礼する」

そう言うなり、フロストさんは私の手を引き足早にその場から遠ざかっていく。

○○「あの、フロストさん? 私なら、お借りしたマフラーがあるので大丈夫ですけど……」

立ち止まることなく進みながら、フロストさんが私を振り返る。

フロスト「……楽しかったか?」

○○「え? はい、すごく!」

フロスト「そうか、それは何よりだ」

○○「伊右衛門が悪い人を倒すところなんて、すごく格好よ…―」

そこまで言うと、不意に口に何かを入れられ、言葉を続けることができなくなってしまう。

○○「ん……っ」

(甘い……飴?)

何が起こったのかわからずに瞬きを繰り返していると、フロストさんが冷たい眼差しで私を見下ろした。

フロスト「あんず飴と言うそうだ。舐め終えるのに時間がかかりそうだな。 新年早々、何故俺がこんな気分に……」

○○「???」

(私、何かしちゃったかな……?)

そっと袖を引くと、彼がゆっくりとこちらを振り向く。

フロスト「……あの男が、そんなに格好良かったか」

(もしかして……)

(やきもち……なのかな?)

○○「あの……」

フロストさんは、私に背を向けてしまう。

フロスト「俺の隣で他の男に視線を奪われる女など、初めてだ。 お前、気は確かか?」

(やきもちなんだ……何だか、嬉しい)

(でも、私、舞台どころじゃなくて、フロストさんのことばかり見ていたんだけどな……)

言葉にする代わりに、フロストさんの背中に、そっと額を預けた。

 

 

<<第4話||太陽覚醒へ>>||月覚醒へ>>