第4話 不機嫌なフロスト

お腹いっぱいお雑煮を食べた後…―。

お出かけをすることになり、私達は街へとやってきていた。

フロスト「賑わっているな。九曜は豊かだ」

晴れ着を着た人々で賑わう街は、色とりどりに飾りつけられている。

木枯らしが強く吹いているのに、フロストさんはちっとも気にならない様子で歩いていた。

(すごい風……寒い)

身をすくめると、フロストさんがさり気なく風の前に立ち、手にしていたマフラーを巻いてくれる。

○○「あの、私大丈夫で…―」

返そうとすると、フロストさんは既に背を向け歩きだしていた。

フロスト「この国は暖かいな。 ほとんど一年中雪に埋もれている我が国とは大違いだ」

(気を使ってくれたのかな)

フロスト「もっとも、雪に覆われた我が国の美しさは、ここの比ではないが」

(優しい……)

優しさが嬉しくて、マフラーに顔をうずめ、黙って彼の背中を追う。

そのまま歩いていくと、やがてフロストさんが足を止めた。

フロスト「演劇か……面白い」

視線の先には舞台が据えられていて、周りには人だかりができている。

(何だか、歌舞伎みたい)

○○「何だか、元いた世界の歌舞伎という演劇に似ています」

フロスト「カブキ……お前はカブキが好きだったのか?」

○○「いえ、実際に観たことはないんですけど……ずっと観てみたいと思っていました」

フロスト「……そうか」

フロストさんは、私の頭にポンと手を置いた。

フロスト「観て行こう。興味深い」

○○「はい、ぜひ」

席に着くと、朗々とした役者さんの声が聞こえてきた。

(古い言葉なのかな……何て言ってるのかわからない)

それでも、役者さんの衣装や演技は目に美しく、私はどんどん引き込まれてしまう。

フロスト「この言葉のことは、何かの文献で読んだことがある。解説してやろう」

フロストさんは、私の耳元に唇を寄せ、演目の邪魔にならないよう、ひそひそ声で話しはじめた。

フロスト「左にいるのが主役で、どこぞの王の隠し子だ」

(ち、近い……)

フロスト「自分の出自を知らず、今は盗賊をやっているという設定だ」

○○「そ、そうなんですか。すごく迫力のある役者さんですね」

彼の吐息をすぐ傍に感じ、言葉は頭を素通りして行ってしまう…―。

フロスト「この歌は、悪人から盗んだ後にここから見る景色はなんと綺麗なのだろう……と、まあそんな意味だな」

○○「か、かっこいいですね。すごく声も綺麗です」

(ドキドキして……舞台どころじゃなくなってきそう)

心臓の音が聞こえないか心配で、私はしきりと相槌を打つ。

○○「素敵ですね」

フロスト「……そうか」

段々とフロストさんの口数が減っていき、ついには隣で黙りこんでしまった。

(フロストさん、集中しているのかな)

彼の顔が離れたことに少しだけホッとして、私は舞台に目を向ける。

ドキドキと高鳴る鼓動はそれでも治まらなくて……私は何度も彼の横顔を盗み見たのだった…―。

 

 

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