お腹いっぱいお雑煮を食べた後…―。
お出かけをすることになり、私達は街へとやってきていた。
フロスト「賑わっているな。九曜は豊かだ」
晴れ着を着た人々で賑わう街は、色とりどりに飾りつけられている。
木枯らしが強く吹いているのに、フロストさんはちっとも気にならない様子で歩いていた。
(すごい風……寒い)
身をすくめると、フロストさんがさり気なく風の前に立ち、手にしていたマフラーを巻いてくれる。
○○「あの、私大丈夫で…―」
返そうとすると、フロストさんは既に背を向け歩きだしていた。
フロスト「この国は暖かいな。 ほとんど一年中雪に埋もれている我が国とは大違いだ」
(気を使ってくれたのかな)
フロスト「もっとも、雪に覆われた我が国の美しさは、ここの比ではないが」
(優しい……)
優しさが嬉しくて、マフラーに顔をうずめ、黙って彼の背中を追う。
そのまま歩いていくと、やがてフロストさんが足を止めた。
フロスト「演劇か……面白い」
視線の先には舞台が据えられていて、周りには人だかりができている。
(何だか、歌舞伎みたい)
○○「何だか、元いた世界の歌舞伎という演劇に似ています」
フロスト「カブキ……お前はカブキが好きだったのか?」
○○「いえ、実際に観たことはないんですけど……ずっと観てみたいと思っていました」
フロスト「……そうか」
フロストさんは、私の頭にポンと手を置いた。
フロスト「観て行こう。興味深い」
○○「はい、ぜひ」
席に着くと、朗々とした役者さんの声が聞こえてきた。
(古い言葉なのかな……何て言ってるのかわからない)
それでも、役者さんの衣装や演技は目に美しく、私はどんどん引き込まれてしまう。
フロスト「この言葉のことは、何かの文献で読んだことがある。解説してやろう」
フロストさんは、私の耳元に唇を寄せ、演目の邪魔にならないよう、ひそひそ声で話しはじめた。
フロスト「左にいるのが主役で、どこぞの王の隠し子だ」
(ち、近い……)
フロスト「自分の出自を知らず、今は盗賊をやっているという設定だ」
○○「そ、そうなんですか。すごく迫力のある役者さんですね」
彼の吐息をすぐ傍に感じ、言葉は頭を素通りして行ってしまう…―。
フロスト「この歌は、悪人から盗んだ後にここから見る景色はなんと綺麗なのだろう……と、まあそんな意味だな」
○○「か、かっこいいですね。すごく声も綺麗です」
(ドキドキして……舞台どころじゃなくなってきそう)
心臓の音が聞こえないか心配で、私はしきりと相槌を打つ。
○○「素敵ですね」
フロスト「……そうか」
段々とフロストさんの口数が減っていき、ついには隣で黙りこんでしまった。
(フロストさん、集中しているのかな)
彼の顔が離れたことに少しだけホッとして、私は舞台に目を向ける。
ドキドキと高鳴る鼓動はそれでも治まらなくて……私は何度も彼の横顔を盗み見たのだった…―。