桜花「初めてお会いしたときから……私は……いけないことだと、知りながらも……」
○○「……桜花さん? 桜花さん……っ!!」
あの出来事から数日…―。
呪いの力によって、私は床に臥せる日々が続いていた。
桜花「……っ」
私は布団の中で、大きく咳き込む。
従者「桜花様! 大丈夫ですか……?」
桜花「……大丈夫。心配をかけて、すまない……」
従者「とんでもございません。私は常にお傍にお控えしていますので、何かあった際はすぐにお声掛けください」
桜花「ああ……ありがとう」
(……本当に、彼には心配ばかりかけてしまって……)
咳き込む私を心配そうに見つめる従者の姿を思い返し、申し訳ない気持ちでいっぱいになる。
(いえ、彼だけではありませんね……)
ここ数日、父上や女中達を筆頭に様々な人々が私を見舞ってくれた。
何より、会うことは叶わないけれど…―。
(○○さん……)
会えない日々も毎日、襖の向こうに彼女の気配を感じていた。
心配をかけてばかりの不甲斐ない自分を見舞ってくれる彼女を思うと、胸の奥が痛み…―。
桜花「……っ」
思わず咳き込みそうになるものの、従者に心配をかけまいと胸のあたりをぎゅっと押さえて堪える。
(……よかった、彼には気づかれていないみたいですね)
私は部屋の隅にじっと控える従者の姿をちらりと見据えた後、布団を深く被り……
苦痛に歪む表情を隠しながら、人知れずこの苦しみをやり過ごすことにした。
…
……
桜花「ふぅ……」
呪いによる苦痛が落ち着いた後、私は布団に仰向けになって天井を見つめていた。
すると、その時…―。
○○「あ、あの……桜花さんは大丈夫なのでしょうか……?」
(……!)
襖の向こうから、想い描いていた人の声が聞こえてきた。
桜花「……っ! はぁっ、はぁっ……」
久しぶりに聞くその声に胸が高鳴った後、私の体は大きな苦痛に支配される。
従者「桜花様! 大丈夫ですか!?」
桜花「……っ、だい、じょうぶ……」
布団の中で体を丸めながら苦しむ私を、従者が覗き込む。
桜花「……」
そうして、どうにか呼吸を整えた私は目を閉じながら耳を澄ませた。
○○「私……桜花さんのことが心配で」
(……っ)
私を労わる彼女の声に愛おしさが込み上げ、更に大きな苦痛が体を支配する。
既に私の体は、彼女の声を聞くだけで呪いの力に翻弄されるまでになってしまっていた。
(……潮時、なのでしょうね)
桜花「……もう私は、この気持ちを抑えられない……」
(この命が散ってしまう前に、彼女に呪いのことを話し……)
(……私の想いを、告げなくては)
従者「桜花様……?」
半身を起こそうとする私を見て、従者が慌てて背中に手を添える。
従者「突然どうされたのですか? ご無理は…―」
桜花「頼む。○○さんをここに……」
従者「え? いや、しかし……」
桜花「大事な話があるんだ……頼む」
従者「桜花様……」
私の顔を心配そうに覗き込む従者の顔を、真剣な眼差しで見つめる。
従者「……わかりました。少々お待ちください」
そうして私は部屋を出ていく従者の背中を見送り、一度だけ大きく深呼吸をした。
(○○さん……)
愛しい人の名前をつぶやき、そのまぶしい笑顔を思い浮かべる。
(もしかしたら私の告白は……あなたを困らせ、悲しませるだけなのかもしれません)
(けれど……)
桜花「……散りゆく前に、どうしてもこの想いを告げたいのです」
胸にそっと手を置きながらひっそりとそうつぶやいた時……
襖に手がかけられおずおずと開かれた。
桜花「○○さん……」
そうして私は、心を支配する不安を悟られないように微笑みを浮かべ…―。
不安げな表情を浮かべる彼女を、静かに迎え入れたのだった…―。
おわり。