厚い雲が空を覆う翌日・・・―。
(キースさんにできる限りのことをしたい)
(こんなの、償いにならないかもしれないけど・・・・・・)
キースさんからはオルゴールの事情を聞いた私は、メイドさんに頼み込んで、彼の部屋の掃除を代わってもらっていた。
(キースさんが、よく眠れるように)
ベッドを整え、キャンドルの上で香を炊く。
部屋中を丁寧に整えてから、ふと外に目をやると、突然に雨が降り始めていた。
(キースさんは、市街地に視察に行かれていたよね)
(濡れてしまったら、大変)
あわてて傘を手にすると、私は部屋から駆け出した。
市街地へ徒歩で行こうとした私に、城の人達は馬車を用意してくれた。
申し訳なさが募ったけれど、すがるように頼まれて、やむなく馬車で市街地へやって来ていた。
車窓からキースさんの姿を見つけると、私はすぐに馬車を止めて雨の中に駆け出す。
キース「お前・・・―」
私を見て、キースさんは目を丸くした。
キース「わざわざ傘を持ってきたのか?」
○○「キースさん持っていかれなかったと思って・・・・・・でも、そうですよね」
キースさんの後ろでは、従者の方が傘をさしかけている。
(私・・・・・・馬鹿だ)
自分の愚かさにうなだれると、キースさんが私の手から傘を受け取った。
キース「そうか。世話をかけたな」
キースさんは従者の方を下がらせて、私にその傘を差しかけてくれる。
そうしてその傘に自分も入った後、私の顔をじっと覗き込んでいる。
キース「お前・・・・・・」
(キースさん・・・・・・?)
○○「あの・・・・・・どうかされましたか?」
キースさんは、そっと私の頬に手を触れる。
キース「お前・・・・・・顔赤いぞ」
○○「えっ・・・・・・」
(そう言えば、少し熱いかも・・・・・・)
次の瞬間・・・・・・クラリと世界が歪む。
(あれ・・・・・・?)
キース「おい!」
私の腰元を強い力が支え、空が遠ざかっていく・・・―。
キース「○○・・・・・・っ」
キースさんが私の名を呼ぶ・・・・・・
その声を聞きながら、私は闇の中へと落ちていった・・・―。