第4話 確かな笑顔

濡れたうなじが、少し寒い・・・―。

○○「キースさん、お風呂の準備ができました」

雨に濡れてしまった体を温めるために、私はバスタブにお湯を張り、香油を垂らしてから、キースさんを呼びに行った。

キース「・・・・・・お前の方が濡れているだろう。先に入れ」

ソファに掛けていたキースさんが、私の髪にそっと手を伸ばす。

○○「いえ・・・・・・私大丈夫です。どうぞ先に入ってください」

頬が熱を持ち、それを覚えられないように私はうつむいて言った。

キース「では、俺と一緒に入れ」

○○「え・・・・・っ」

キース「お前は俺の奴隷だろう?」

○○「あ、あの・・・―」

戸惑いに何度も瞳を瞬かせながらも、ゆっくりと頷いた。

(奴隷、だから・・・・・・)

そのままキースさんの瞳を見ることができずにいると、彼はかすかに微笑みをこぼした。

キース「そんなに動揺しなくてもいいだろう。 ・・・・・・まあ、いい」

そう言って彼は、一人バスルームへと向かう。

扉が閉まり、一人になると、私はほっと胸を撫で下ろした。

(よ、よかった)

その時・・・―。

キースさんの机の上に、オルゴールの破片が集められているのを見つける。

(私が壊してしまったオルゴール・・・・・・)

(キースさんが集めたのかな)

美しい細工が施された木箱に、大切に納められたその破片がキラキラと光りを放っている。

(本当に、大切なものだったんだ)

胸がぎゅっと締め付けられる。

ポケットに入っている、ハンカチに包まれた破片を取り出した。

(こんなにバラバラにしてしまって)

(私にできることは・・・・・・)

私は、ハンカチの中の破片をそっと箱に入れた。

・・・

・・・・・・

やがてキースさんがお風呂から戻ってくると、私は先ほどの決意を胸の中で確認する。

○○「お水をご用意しますね」

キース「・・・・・・」

キースさんは、一瞬驚いたように私を見つめる。

キース「・・・・・・いい」

○○「え・・・・・・」

キースさんは背を向けて、私が用意していたレモン水を自分でコップに注いだ。

○○「・・・・・・言われた通りにできなくてごめんなさい。 これからはちゃんとやります。 私は・・・・・・キースさんの奴隷だから」

キース「・・・・・・」

○○「大切にされていたオルゴールのお詫びには、程遠いかもしれませんけど・・・・・・。 何でも仰ってください」

私は深々と頭を下げる。

しばらくすると、キースさんがつぶやくように口をひらいた。

キース「あれは、死んだ姉の形見だ。 事故で死ぬ直前、俺の誕生日プレゼントに贈ってくれた。 公務に追われる俺が、せめて夜は良く眠れるように・・・・・・、自作の曲を入れてくれていた」

○○「!」

(そんな大切なものを・・・・・・!)

○○「・・・・・・私、取り返しのつかないことを」

オルゴールに込められた想いを知って、胸が潰れしまいそうになりながらキースさんを見つめる。

すると、箱の破片を見つめていた彼は、そっと目を閉じた。

キース「・・・・・・奴隷云々を本気にするとは思わなかった。 もう、いい。形あるものは、いつか壊れる」

キースさんは、ふっと寂しそうに目を細める。

その口元に浮かんだ微笑みに、私の胸がひどく軋んだ・・・―。

 

 

<<第3話||第5話>>