窓から吹き込むつ冷たい風に背を震わせる。
(奴隷って?)
破片を拾うため、床にしゃがみ込んだままの私を、氷のような眼差しが見据えている。
キースさんは、おもむろに私に足を突き出した。
キース「気づかないのか?」
○○「え・・・・・・?」
事態を全く理解できず、私は瞳を瞬かせる。
○○「あの、何に・・・・・・ですか?」
キース「鈍い奴だな。 俺の靴にほこりがついているのが見えないのか」
キースさんの靴先を見ると、小さなほこりがついている。
○○「あ・・・・・・」
(ど、奴隷ってそういうこと?)
(どうして、こんな・・・・・・でも、きっとキースさんの大切なものを壊してしまったんだ)
○○「・・・・・・」
どうしていいかわからないものの、自責の念からハンカチを取り出そうとすると、拾った破片がいくつか、手の平からこぼれ落ちてしまった。
○○「あ・・・・・・」
慌ててそれを拾う。
キース「・・・・・・」
黙って見ていたキースさんが、静かに立ち上がった。
○○「あ、あの?」
キース「・・・・・・靴も満足に拭けない奴隷は、いらない」
○○「・・・・・・すみません」
キース「出ていけ」
○○「え?」
キース「外で反省しろと言ってるんだ」
○○「は、はい・・・・・・」
上から私を見下ろすキースさんの表情は、はっきりとは見えない。
その声の冷たさに追い出されるように、私は部屋を後にした。
(奴隷になれなんて・・・・・・)
呆然と立ち尽くしていると、手の中に割れたオルゴールの破片を乗せていたことを思い出した。
(でも、きっと・・・・・・すごく大切なものだったんだ)
(・・・・・・きちんと謝らなきゃ)
破片をこぼさないように、ポケットからハンカチを取り出す。
美しい音色を思い出しながら、私はそっとそれを包んだ。
空庭に出ると、降りつける雨の冷たさに身を震わせた。
(少し寒い・・・・・・でも)
細かく砕かれたオルゴールを思い返す。
(私が、壊してしまたんだから・・・・・・)
うつむくと、冷たい雨が首筋を濡らす。
髪を伝い頬を濡らす雫を拭うこともせず、私は途方に暮れていた。
・・・
・・・・・・
どれくらい時間が経ったのかもわからないまま、私はその場に立ち尽くしていた。
(寒い・・・・・・)
雨に濡れた体が、小刻みに震え出す。
その時・・・・・・
空に大きな音が響き渡り、辺りが一瞬真っ白に光る。
○○「・・・・・・」
(か、雷・・・・・・?)
なおも激しさを増していく雷の音に、私は耳を抑えてその場にしゃがみ込んでしまった。
すると・・・・・・
キース「情けない奴だな」
いつの間にかキースさんが傍に立っていて、私を見下ろしていた。
○○「キースさん・・・・・・」
キース「・・・・・・」
傘もささずに、雨に濡れながら私をじっと見つめている。
不意に、その手がそっと私に差し出された。
○○「あ、ありがとうございます」
その手に触れるのがためらわれて、私はそっとまつ毛を伏せた。
キース「・・・・・・」
キースさんの手が私の手首を掴み、力強く引き上げる。
キース「外で反省しろと言われて、馬鹿正直に雨に濡れていたのか?」
○○「・・・・・・はい」
キース「仕様のない奴だ」
キースさんに手を引かれて部屋に戻ると、彼は私をソファーに座られてくれる。
(私のせいで、キースさんもびしょぬれになってしまった)
○○「わ、私・・・・・・お風呂を沸かしてきます」
そうつぶやくと、キースさんがそっと私の頭に手を置く。
○○「・・・・・・?」
彼が微かに目を細めて、私の胸が小さく音を立てた。
(キースさん・・・・・・?)
いつの間にか小降りになった雨が、窓を優しく叩いていた・・・―。