翌日・・・―。
国王様のお茶会に招かれた私は、隣に座るキースさんの横顔を見つめる。
昨日と同様、まるで私などいないかのように、キースさんは一度もこちらを見ない。
(昨日から、一度も声をかけてもらえてない)
(何か、気に障ることでもしてしまったかな・・・・・・)
そう思った私は・・・・・・
(聞いてみようかな)
(でも・・・・・・)
反対隣の男性と難しそうな話をしている彼に、話しかけることはできなかった。
結局一言も言葉を交わすことができないでいるうちに、お茶会が終わってしまう。
いつの間にか、彼は部屋に戻ってしまったようだった。
(また、一言も口をきけなかった)
悲しい気持ちで彼が座っていた席を見つめる。
すると・・・・・・
(あれ?)
テーブルの上に、美しい万年筆が置かれているのを見つけた。
(もしかして、キースさんのものかな?)
○○「・・・・・・」
それをぎゅっと握りしめて、私は会場を後にした。
キースさんの部屋の前に立ち、ほんの少し開いている扉をノックする。
○○「・・・・・・キースさん?」
何度かノックするものの返事はなく、扉の隙間からかすかにオルゴールの音色が聞こえてきた。
(素敵な音色・・・・・・)
暖かく可憐なその音に吸い込まれるように、私は部屋を覗き込んだ。
柔らかな風が、カーテンを揺らしている。
ソファーに腰掛けたまま、波のように揺れる光を頬に受けて、
キースさんが寝息を立てていた。
(今日は風が少し冷たいし・・・・・・風邪をひいてしまうかもしれない)
(窓を閉めておこう)
足音をたてないように、キースさんの横を通り過ぎた。
彼のすぐ横の机で、可愛らしい子鹿と鼻の飾りが載った陶器のオルゴールが回っている。
(綺麗な音・・・・・・)
そう思った時・・・―。
○○「・・・・・・!」
ひときわ強い風が吹きつけて、オルゴールがカーテンに倒されてしまった。
(落ちちゃう・・・・・・!)
慌ててそれを立てようとすると・・・・・・
○○「あ・・・・・・っ!」
私の指が、誤ってオルゴールを机から落としてしまった。
部屋中に、オルゴールの砕け散る音が響く。
キース「・・・・・・」
その音に目を覚ましたキースさんが、驚いたように私を見据えた。
○○「あ、あの・・・・・・ごめんなさい・・・私、万年筆を届けに来て。 それで、窓を閉めようととして・・・・・・」
(どうしよう・・・・・・)
彼は私の言葉を無視して、無残に割れ散ったオルゴールに目をやる。
○○「ごめんなさい!」
慌てて床にしゃがみ込み、破片を集めはじめる。
無言でそれを見ていたキースさんが、静かに口を開いた。
キース「・・・・・・その万年筆は、俺のものではない」
○○「えっ・・・・・・」
私を見据える彼の視線は恐ろしいほどに冷たくて、動くことができなくなってしまった。
○○「ごめんなさい・・・・・・」
キースさんの視線が、壊れたオルゴールに移る。
オルゴールを見つめるキースさんのまつ毛が、影を落とした。
キース「・・・・・・」
黙ったままのキースさんは、どこか悲しげにも見えて・・・―。
(このオルゴール、大切なものだったのかも・・・・・・どうしよう、私)
○○「ごめんなさい・・・・・・あの、私・・・・・・何でもします・・・・・・」
キース「何でも?」
○○「はい・・・・・・」
キースさんが私を冷たく見下ろして、おもむろに足を組む。
キース「では、お前は今から奴隷だ」
○○「えっ・・・・・・?」
冷たい風が私たちの間を吹き抜けていく。
彼の冷たい眼差しが、今はただ恐ろしかった・・・―。