第2話 氷の瞳

翌日・・・―。

国王様のお茶会に招かれた私は、隣に座るキースさんの横顔を見つめる。

昨日と同様、まるで私などいないかのように、キースさんは一度もこちらを見ない。

(昨日から、一度も声をかけてもらえてない)

(何か、気に障ることでもしてしまったかな・・・・・・)

そう思った私は・・・・・・

(聞いてみようかな)

(でも・・・・・・)

反対隣の男性と難しそうな話をしている彼に、話しかけることはできなかった。

結局一言も言葉を交わすことができないでいるうちに、お茶会が終わってしまう。

いつの間にか、彼は部屋に戻ってしまったようだった。

(また、一言も口をきけなかった)

悲しい気持ちで彼が座っていた席を見つめる。

すると・・・・・・

(あれ?)

テーブルの上に、美しい万年筆が置かれているのを見つけた。

(もしかして、キースさんのものかな?)

○○「・・・・・・」

それをぎゅっと握りしめて、私は会場を後にした。

キースさんの部屋の前に立ち、ほんの少し開いている扉をノックする。

○○「・・・・・・キースさん?」

何度かノックするものの返事はなく、扉の隙間からかすかにオルゴールの音色が聞こえてきた。

(素敵な音色・・・・・・)

暖かく可憐なその音に吸い込まれるように、私は部屋を覗き込んだ。

柔らかな風が、カーテンを揺らしている。

ソファーに腰掛けたまま、波のように揺れる光を頬に受けて、

キースさんが寝息を立てていた。

(今日は風が少し冷たいし・・・・・・風邪をひいてしまうかもしれない)

(窓を閉めておこう)

足音をたてないように、キースさんの横を通り過ぎた。

彼のすぐ横の机で、可愛らしい子鹿と鼻の飾りが載った陶器のオルゴールが回っている。

(綺麗な音・・・・・・)

そう思った時・・・―。

○○「・・・・・・!」

ひときわ強い風が吹きつけて、オルゴールがカーテンに倒されてしまった。

(落ちちゃう・・・・・・!)

慌ててそれを立てようとすると・・・・・・

○○「あ・・・・・・っ!」

私の指が、誤ってオルゴールを机から落としてしまった。

部屋中に、オルゴールの砕け散る音が響く。

キース「・・・・・・」

その音に目を覚ましたキースさんが、驚いたように私を見据えた。

○○「あ、あの・・・・・・ごめんなさい・・・私、万年筆を届けに来て。 それで、窓を閉めようととして・・・・・・」

(どうしよう・・・・・・)

彼は私の言葉を無視して、無残に割れ散ったオルゴールに目をやる。

○○「ごめんなさい!」

慌てて床にしゃがみ込み、破片を集めはじめる。

無言でそれを見ていたキースさんが、静かに口を開いた。

キース「・・・・・・その万年筆は、俺のものではない」

○○「えっ・・・・・・」

私を見据える彼の視線は恐ろしいほどに冷たくて、動くことができなくなってしまった。

○○「ごめんなさい・・・・・・」

キースさんの視線が、壊れたオルゴールに移る。

オルゴールを見つめるキースさんのまつ毛が、影を落とした。

キース「・・・・・・」

黙ったままのキースさんは、どこか悲しげにも見えて・・・―。

(このオルゴール、大切なものだったのかも・・・・・・どうしよう、私)

○○「ごめんなさい・・・・・・あの、私・・・・・・何でもします・・・・・・」

キース「何でも?」

○○「はい・・・・・・」

キースさんが私を冷たく見下ろして、おもむろに足を組む。

キース「では、お前は今から奴隷だ」

○○「えっ・・・・・・?」

冷たい風が私たちの間を吹き抜けていく。

彼の冷たい眼差しが、今はただ恐ろしかった・・・―。

 

 

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