アインツさんと向き合い、羽子板で羽根を打ち合う。
アインツ「行くぞ!○○!」
○○「はい……!」
(まだ一緒にいたいと思ったけれど……まさか、アインツさんと羽根つきをすることになるなんて……)
ー----
アインツ「○○、勝負だ!」
○○「え……?」
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アインツさんが買ってきたのは、店で見た羽子板だった…―。
(羽子板で遊んでみたかったのかな……?でも、どうして隠さないといけなかったんだろう……?)
不思議に思いながらも、私はアインツさんへと羽根を打ち返す。
(でも……)
アインツ「なかなか楽しいな!弾ける汗!みなぎる血潮!寒い時期の運動とはいいものだ!そうだろう?○○!」
アインツさんは輝く笑顔で、羽根を打ち返す。
楽しそうな彼を見ていると、私も嬉しくなってくる。
アインツ「こうやってオマエと戦えるとは思わなかった!……しかも、なかなか強い!さすが○○だ!」
アインツさんは輝く瞳で屈託のない笑顔を私に向ける。
○○「ほ……ほめ過ぎです」
アインツ「そんなことはない!オレの100の技をもってしても互角!いや、オマエの方が上だ!」
(アインツさんはちょっとしたことでとっても喜んでくれる……その度に私は……胸が温かくなって、私まで笑顔になっていく……だから私は、アインツさんのことを……)
アインツさんに向かって羽根を打ち返す。
○○「いきましたよ!アインツさん!」
アインツ「よし!オレのミラクルレシーブを!」
けれど、アインツさんは打ち返す直前で、手を止めてしまった。
羽根がアインツさんの傍に落ちる。
(あれ?今……わざと空振りしたような……)
アインツ「また負けてしまったようだな!」
アインツさんが羽根を拾いに走っていく。
(そう言えば……私、まだ一度も落書きをされていない……さっきから勝つのは私ばかりで、アインツさんは慣れていないせいだと思っていたけど……アインツさん、本当はわざと負けてくれているんじゃ……?)
戻ってくると、アインツさんはさっそく羽子板を構える。
アインツ「よし!次の勝負だ!」
彼は墨だらけの顔で笑う。
(もしかして……?)
○○「アインツさん、手加減しなくてもいいですよ?」
アインツ「何!?なぜそれを!」
彼はそこまで言って、慌てて口を手で覆った。
(やっぱり、手加減してくれていたんだ……)
○○「私、アインツさんに本気で楽しんで欲しいんです……」
アインツ「楽しんでいないわけじゃないんだ!その……オマエの顔に墨で落書きなんて……」
(そのことを気にしてくれていたんだ……)
○○「大丈夫です。昔もよく顔中、墨だらけになってましたから」
アインツ「そう言うが……」
○○「真剣勝負です!」
アインツ「○○……」
アインツさんは納得できないのか、サーブを打とうとして、羽根を投げられずにいた。
(アインツさんは優しいから……逆に困らせてしまうのかな……?)
アインツ「どうしたらいいんだ、オレ!これで勝ったら、○○に好きだと言おうと思っていたが!だが、負けた方が顔に墨で落書きされることをすっかり忘れていた!好きな女に落書きして辱めるなんて!」
○○「え?」
(今……好きって……)
アインツ「仕方がない!いくぞ!」
アインツさんが羽根を打つ。
力が入らなかったのか、彼の打った羽根は弱々しく私の方へ飛んでくる。
けれど、私は驚きのあまり、その羽根が落ちていくのを眺めることしかできなかった。
アインツ「勝ってしまった……。○○!今のはなしだ!やり直すぞ!」
○○「アインツさん……今なんて?」
アインツ「やり直しだ!」
○○「私を……好きだって……」
アインツ「ええ!?まさか、口から漏れていたのか!?」
○○「はい……全部……」
アインツ「そうか……」
顔を真っ赤にさせて、視線をしばらく彷徨わせた後…―。
アインツ「こうなったら、言うぞ!オレは、オマエと会った時からオマエのことが好きなんだ!」
○○「っ……!」
アインツ「○○、オマエはどうだ!?オレのことをどう思う?」
○○「私は……」
(私はアインツさんのことが……)
一緒に歩いていた楽しい記憶がよみがえる。
(嬉しい……同じ気持ちだったなんて……)
アインツさんに返事をしようと口を開く。
けれど…―。
アインツ「いや、待ってくれ!今聞くと、心臓が壊れそうだ!そうだ!オレの顔に墨で返事を書いてくれ!」
○○「顔に……ですか?」
アインツ「ああ!」
○○「でも……」
アインツ「頼む!」
○○「わかりました」
墨のついた筆を手にとると、私はアインツさんの傍に近づく。
彼は顔が耳まで赤く染まっていた。
(私も、アインツさんのことが……)
私は彼の頬に『好き』と書いた。
○○「書きました」
アインツ「そうか!」
ドキドキしながら、彼がどうするのかを待つ。
けれど…―。
アインツ「……」
○○「?」
アインツさんは、眉をよせ顔をきょろきょろと動かす。
○○「アインツさん?」
アインツ「しまった!返事が見えない!」
○○「あ……」
アインツ「今すぐ答えを知りたいが……どうしたらいいんだ!望んだ返事じゃないかも知れない!だが知りたい!」
頭を抱えるアインツさんを見て、私は思わず笑ってしまった。
(早く、見てくれたらいいな……)
アインツさんの隣で、その時を待ち遠しく思いながら、私は彼の頬を見つめていた…―。
おわり。