アインツ「これを、オマエに!」
○○「私に?」
私は、アインツさんが持っている紙袋を見つめた。
アインツ「そそそそのだなっ……色々あって、さっき途中になってしまったからな!」
○○「さっき?」
アインツさんは紙袋を開くと、中に入っているものを取り出した。
それは…―。
○○「これ……」
アインツ「羽子板だ」
アインツさんが袋からとり出したのは、飾りの美しい羽子板だった。
○○「アインツさん……」
アインツ「○○に一番いいものを選んできた!女子に渡す縁起物だというからな!」
○○「縁起物?」
(羽子板ってそういう意味もあるんだ……)
アインツ「これをどうしてもオマエに渡したかったんだ。今日の記念というか……」
(だから……買いに行ってくれたの?)
私は、まだ息を切らしている彼を見つめる。
アインツ「……いや、記念で終わるつもりはない!店主が『彼女』に買ってやったらどうだと言っていたんだ!だから、オレの『彼女』にプレゼントしようと思って!」
○○「えっと……」
アインツ「つまりだ!オレの彼女になってくれ!」
○○「え……?」
思いがけない彼の告白を聞いて、私は言葉を失う。
アインツ「その……オレが心に秘めていたから、オマエは気づいていないかもしれないが、オマエのことがずっと、す……好きだったんだ!」
○○「っ……!」
あまりにも真っ直ぐな告白に、胸がドキンと大きく鳴る。
アインツ「突然だからな、驚くかもしれないが……せっかくここで会えたんだ。しかも年の初めに!運命以外の何物でもない!その運命をここで終わらせたくないんだ!」
(アインツさん……)
私は、羽子板に手を伸ばした。
アインツ「○○……」
○○「嬉しいです。私も、同じ気持ちだったので」
アインツ「何!?」
○○「私も、アインツさんとこのままお別れしたくなかったんです……もっと一緒にいたくて……」
アインツ「それは、好きということか?オレのことが大好きだということなのか!?」
○○「はい……今日、一緒に歩けて嬉しかったです」
アインツ「そうか!」
アインツさんが嬉しそうに笑う。
羽子板を受け取り、アインツさんに笑いかける。
アインツ「やはり、○○のような可愛い女にはぴったりだな!」
私の頭を優しく撫で、アインツさんも嬉しそうに笑ってくれた。
アインツ「……」
ふと、彼との距離が近づく…―。
(え……?)
額に彼の指がそっと触れたかと思うと、前髪を払われキスが落とされた。
○○「っ……!」
ゆっくりと顔を離していくアインツさんと、視線が重なった。
彼はハッと目を見開いたかと思うと、みるみるうちに顔を真っ赤に染めていく。
アインツ「オレはなんてことをしてしまったんだ!嬉しさのあまり……それに○○が可愛くて、ついオレの鋼の理性が切れてしまった……」
(顔が熱い……)
頬を手で押さえ、恥ずかしさにうつむいた。
胸がドキドキと音を鳴らす。
アインツ「○○、嫌だったか?」
彼が心配そうに私を見つめる。
○○「あの……」
アインツ「嫌だったのなら素直に言ってくれ!お互いの気持ちがわかったからといって、急だった!」
(嫌なんて、そんなことは……)
私は、首を横に振った。
○○「嫌じゃないです」
自分の言った言葉に恥ずかしくなる。
けれど、それ以上に彼にちゃんと伝えなければいけない気がした。
○○「嫌だなんて思わないです……絶対に……」
アインツ「そうか……」
アインツさんはホッとしたように笑い、私の手を握る。
優しく引き寄せられて、また彼との距離が近づいた。
アインツ「なら、もう一度してもいいか?」
○○「え……?」
彼の真剣な眼差しに、私の胸がより一層ドキドキと音を鳴らす。
○○「はい……」
私の頬に手をそえると、彼はまたゆっくりと顔を寄せて…―。
アインツ「言い忘れた。今度は、唇に……」
○○「え!?」
問い返す前に、彼が私の唇をふさぐ。
○○「……ん」
彼の唇を受け入れて、私はそっと瞳を閉じる。
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アインツ「女子に渡す縁起物だというからな!」
ー----
(羽子板が……私達を近づけてくれたのかな)
あの時のアインツさんの声が、私の頭の中でいつまでも心地よく響いていた…―。
おわり。