アインツさんに手を引かれ、私は大通りを歩いていた。
肌に当たる風は冷たいのに、彼と繋いだ手はすごく温かい…―。
アインツ「色んな店があるな」
○○「そうですね」
彼と同じように、辺りの店を見渡す。
道の少し先にある出店で、一際賑やかな声があがった。
○○「あれは……輪投げ?」
店の奥にはぬいぐるみやおもちゃが並び、子ども達がその景品に向かって輪を投げている。
(元いた世界と同じだ……)
子ども達の頑張る姿を見つめていると、アインツさんが私の顔を覗き込んだ。
アインツ「あのぬいぐるみが欲しいのか?」
○○「え?」
アインツさんに尋ねられ、私は自分が棚に並んだぬいぐるみを見つめていたことに気づく。
○○「欲しいと言うか……私も昔、ぬいぐるみが欲しくて試したことがあったんです」
(懐かしいな……)
そう思っていると、アインツさんは私の手を引き寄せた。
アインツ「よし!○○にあのぬいぐるみをとってやろう!」
○○「え……?」
アインツ「白いフカフカしたウサギのぬいぐるみだな?任せておけ!」
○○「ありがとうございます」
アインツ「礼はいらないぞ。これがオレの使命だからな!」
○○「使命……ですか?」
(どういうことだろう……?)
私が不思議に思っているうちに、アインツさんは店主さんから輪を受け取り、もうぬいぐるみに向けて狙いを定めていた。
アインツ「○○のために、オレの秘められた力を解放しよう!アインツスーパーローリングショーット!」
アインツさんの投げた輪が、早い回転を伴ってぬいぐるみへと飛んでいく。
(すごい……!)
けれど…―。
○○「あ……」
輪はぬいぐるみの横をすり抜けて落ちていった。
アインツ「なにぃー!?」
アインツさんは大声を上げ、頭を抱える。
アインツ「ぬううっ、あのぬいぐるみには、呪いでもかかっているのか!?」
○○「惜しかったですね」
アインツ「……○○も試しにやってみるか?」
○○「え……はい!」
アインツさんから輪を受け取り、私はぬいぐるみに狙いを定める。
○○「えい!」
輪が弱々しくぬいぐるみの方へ飛んで行く。
そして…―。
○○「嘘……入った……」
私の投げた輪は、まずはぬいぐるみの耳に引っかかり、そのまま体をくぐり抜けていった。
アインツ「なんてすごいんだ!○○は!」
逞しい腕が私の体を引き寄せる。
アインツさんは私を抱き上げ、嬉しそうに笑った。
○○「っ……!」
不意に彼の顔が近づいて、私の胸が音を立てる。
笑った彼の口の端に八重歯が覗く。
(わ……!どうしたんだろう……私……今……アインツさんのことを、可愛いって……)
アインツ「呪いも乗り越えてぬいぐるみを手に入れるとは、オレは感動したぞ!○○!さすがオレの○○だな!」
(オレの……?)
その言葉に、また私の胸が一層高鳴ってしまう。
アインツ「でも、次はオレが取るからな!欲しいものがあったらいつでも言ってくれ!」
○○「はい……」
アインツさんは私にぬいぐるみを手渡して、微笑む。
その笑顔に答えつつ、私は胸の高鳴りを抑えられずにいた…―。