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〇〇『ここは……?』
ヒノト『祈念の儀がこれから行われる神楽殿だよ』
ヒノト『うん。俺の代は去年だったから、その時に見せてあげられたらよかったんだけど……』
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目の前で繰り広げられた祈念の儀はそれは感動的な催しだった。
幻想的な笛の音に合わせて、今年を象徴する申の一族の代表が舞いを舞う。
〇〇「素敵……」
その躍動感あふれる見事な舞いに、自然と感嘆の声がもれる。
すると隣にいたヒノトさんが私の手をぎゅっと握りしめた。
心地よい体温が指先から伝わり、胸がそっと騒ぎ出す。
ヒノト「……」
弾む胸を押さえながら隣にいる彼を見上げれば、その目は神楽殿にて奉納される舞いをゆるりと眺めていたのだった…-。
…
……
祈念の儀が終わっても、私の心は未だ余韻に満ちていた。
〇〇「すごく素敵でしたね……」
ため息交じりにいってヒノトさんに視線を向ければ、彼は嬉しそうに微笑んで私の手を再び握る。
ヒノト「君のために特別に見やすい席を用意したんだよ」
〇〇「そんな……ありがとうございます」
ヒノト「お礼ならもっと特別なものをもらいたいかな? 儀式の指揮を執っている王子自ら手伝ったんだからね」
色っぽい仕草で片目をつむって。ヒノトさんは私を抱き寄せる。
〇〇「手伝ったって……」
その時、神楽を演奏していた人達の中に、以前彼の執務室で見た楽師さん達がいることに気づいた。
〇〇「もしかして……」
ヒノト「うん、人数は増やしたけれど、彼らはいい仕事をしてくれたよ。俺も下稽古は手伝ったけどね」
得意げに言って、彼は和太鼓を叩く仕草をする。
〇〇「優しいんですね……」
ヒノト「そう? そんなことないよ。まあでも……。 彼らを甘やかすのはどうか……とは思ったんだけどね、カノエ達にいい形で引き継げて良かった」
私の手を握っていた指先がゆっくりと絡み合わされる。
その掌には小さいながら、確かにマメができていた。
(ヒノトさん……やっぱり、優しい人なんだ)
やがて城へ戻るために立ち上がると…-。
秘書官「ヒノト様、この後、前任者としての挨拶を…-」
ヒノト「……!」
立ち上がったヒノトさんを待ち構えていたように秘書官の方が現れた。
ヒノト「ええと、それはね……」
(あ……)
―――――
ヒノト『参ったな……ちゃんと準備したかったのに』
〇〇『準備……?』
ヒノト『……こっちの話』
―――――
(準備って、もしかしてこのこと……?)
そっと、横にいるヒノトさんの顔を見上げると……
ヒノト「……他を手伝ってて、忘れてたんだ。全然間に合ってないよ」
ばつが悪そうに笑いながら、そう私に耳打ちしたかと思うと…-。
ヒノト「後は任せた!」
〇〇「えっ!?」
途端に視界が高くなったかと思えば、私の体は彼に抱きかかえられていて、彼は私を連れてそのまま祈念の儀の場から抜け出したのだった。