夜の街に神事を前にした幻想的な明かりが灯る中…-。
〇〇「待って! 私の話を聞いてください」
私はその場から去ろうとするヒノトさんを呼び止めた。
〇〇「本当にごめんなさい……私、ヒノトさんの気持ちを疑ってたんです。 あまりに急だったから、すぐに信じられなくて……」
彼と秘書官の方との関係が気になっていたこと……
そしてその本人である秘書官の方から聞いた話をヒノトさんに告げる。
ヒノト「それ……君は、彼女にやきもちを焼いていたってこと?」
〇〇「……っ、それは――」
(そうだったのかな……?)
(だから私は素直な気持ちでヒノトさんの言葉を受け取れなかった……?)
悩みながら小さく頷くと…-。
ヒノト「〇〇……」
驚きの色を現したかと思えば、彼の口元が緩やかに綻び始める。
ヒノト「どうしよう……それってすごく可愛い。それにとても嬉しいよ!」
〇〇「……っ」
不意に彼の腕が伸びて、息をひっ詰めた。
気づけば彼の顔が目の前にあり、私の体は彼の腕に抱き締められていた。
〇〇「あ、あの……っ!」
慌てて彼の腕の中でもがいて見上げれば……
ヒノトさんは真っ赤な顔をして私を見下ろしていた。
(え……?)
呆気にとられてじっと彼の紅の差す顔を見つめる。
(こんな顔するんだ……)
それはまるで、初めて恋を知った少年のようで……
ヒノト「……〇〇、そんなに大きな瞳で見つめられたら恥ずかしいよ」
〇〇「え……あ、すみません……」
彼の気持ちが伝染したように、私まで顔が熱くなる。
しばらくそのまま歯がゆくも淡い時間を分かち合っていると…-。
ヒノト「っと、あの……案内したい場所があるんだけど、いいかな?」
いつもは流れるように言葉を紡ぐ彼の唇から、迷いのある声が出たのだった。
彼の手に引かれてやって来たのは、静けさと華やかさが共存する社殿だった。
煌々とした篝火の灯りに照らされた舞台が闇の中で浮き上がる。
〇〇「ここは……?」
ヒノト「祈念の儀がこれから行われる神楽殿だよ」
〇〇「今日だったんですか?」
ヒノト「うん。俺の代は去年だったから、その時に見せてあげられたらよかったんだけど……。 今年はカノエがやるんだけど……まあ彼のことだし、しっかりやるんじゃないかな」
〇〇「カノエさん?」
いつか聞いた記憶があるような名前を聞き返すと…-。
ヒノト「その話はまた後で。ほら、始まる」
〇〇「……っ」
ヒノトさんは私の唇に人差し指を押し当てて、しーっと小さくつぶやく。
彼の視線を追って神楽殿を見ると、次の瞬間、静まり返ったその場に厳かな笛の音が鳴り響いた…-。