城の回廊から見る庭先は、初めてこの城に来た時と同じく美しい。
けれど同じはずの風景が、今日の私には色褪せて見える……
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ヒノト「いいよ、大丈夫。でも、ちょっと痛いところ突かれちゃったな……。 ……ごめん」
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(私の言葉で傷つけてしまった……)
今までに見たこともないほど寂しそうだった彼の顔が忘れられない。
(……謝りに行かないと)
私は城の中で彼の姿を探すことにした。
しかし祈念の儀が近いせいかヒノトさんは忙しくなかなか会うことができない。
その時、例の秘書官の方とすれ違った。
秘書官「どういたしましたか? 顔色が優れないようですが」
◯◯「あ、私……」
事情を説明すると…ー。
秘書官「それで姫様はヒノト様を傷つけてしまったのかと心配してると……」
◯◯「……はい」
秘書官さんは親身になって話を聞いてくれた後、大らかな笑みを浮かべた。
秘書官「確かにあの方の隣には常に女性がいますけれども……。 自分に興味を持ってくれない女性に何度も声をかけるようなことはしませんよ。 きっと姫様が初めてなのではないでしょうか?」
◯◯「え……それ、本当ですか?」
秘書官「ええ」
くすくすと微笑ましそうに彼女は笑い声を漏らす。
(じゃあ、あの時のヒノトさんの言葉は本気だった?)
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ヒノト「ねえ、◯◯、俺とお付き合いしてみる気はない?」
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思い出すと、ほのかな痛みに胸が締めつけられた。
◯◯「でも、私には秘書官さんの方が、彼にとって特別に見えます……」
秘書官「それは誤解です」
彼女は笑って、でもきっぱりとそう言った。
秘書官「ヒノト様とは小さい頃からの幼馴染。きっと、姉のように思ってくれてるのでしょう。 それに私、こう見えて一児の母なんですよ」
◯◯「え!?」
(こんなに若いのに!?)
おかしそうに笑う秘書官の方には、どう見ても子どもがいるようには見えない。
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ヒノト「美人なのに勿体ないよね、なんであんなに短気なんだか……」
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二人の親しさの理由が一気に解けた気がしてはっとした。
(私、勝手に一人でお似合いの二人だと思い込んで……)
◯◯「あの! 私、ヒノトさんに今すぐ謝らないと……」
秘書官「この時間ならヒノト様はきっと寄合い帰りで街にいると思いますよ」
◯◯「ありがとうございます!」
私はすぐに街へ向かうためにその場から駆け出した。
(ヒノトさんの本当の気持ちを、受け止められなかった……)
申し訳ない気持ちが溢れてきて、私は街をひた走り……
◯◯「ヒノトさん!」
追いついて服の裾を掴み、ヒノトさんの顔を見上げる。
ヒノト「◯◯……?」
私の声に振り返って彼が大きく目を見開く。
しかしすぐに私から視線をそらして、細い指先で彼は自分の髪をいじった。
ヒノト「……どうして来たの? 参ったな……ちゃんと準備したかったのに」
◯◯「準備……?」
ヒノト「……こっちの話」
◯◯「……?」
素っ気なく曖昧に笑った彼は、再び口を開いたのだった…ー。