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ヒノト「そのかわり必ずいい働きをしてくれないと……この言葉の意味わかるよね?」}
ヒノト「驚いた。ちょっと意外な反応だな……」
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優しく穏やかなヒノトさんの奥にあるものを垣間見た、その翌日…ー。
私は彼に誘われて一緒に夕食をとることになった。
彼が連れて来てくれたのは和を感じさせる落ちついた料理店だった。
◯◯「素敵なお店ですね、忙しそうなところありがとうございます」
ヒノト「君のためならいくらでも時間を作るよ、君を招待したのは俺なんだから。 とはいえ本当のこと言うと、今の俺は君と過ごす以外のことはしたくないんだけどね」
座卓に肘をつき、私の顔を見た彼が嬉しそうに微笑む。
◯◯「そんな……」
(やっぱり、私と一緒にいる時は、いつも優しくて紳士的)
そんな彼の笑顔を見て、昨日の秘書官の方の言葉を思い出した。
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秘書官「ヒノト様は女性に対しては、優しく紳士的なのですが、男性に対してはどうも厳しくて……」
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◯◯「そういえば、秘書官の方のことですが……」
ヒノト「秘書官? ああ、彼女のことが気になる? ああ見えて彼女、怒らせると怖いんだ……! 美人なのにもったいないよね、なんであんなに短気なんだか……」
口にする彼の表情は朗らかで、身内に対するような情がある。
(彼女にはそれだけ気を許してるってことなのかな?)
◯◯「……仲がいいんですね」
ヒノト「えぇ!? まさか!」
◯◯「えっ……」
少し寂しく思っていただけに、意外な反応につい声が漏れてしまった。
ヒノト「もちろん彼女は悪い人じゃないし、嫌いじゃあないよ。 でも秘書官は秘書官でしょ。まあ、一応女性だから男の部下達とは違った扱いにはなるけど。 それに……」
ふっと彼の目が微かに遠くなる。
ヒノト「あの人は、いつも傍にいてくれるわけじゃないしね……」
◯◯「……」
(あれ……?)
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ヒノト「驚いた。ちょっと意外な反応だな……」
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(あの時と同じ、寂しそうな顔……)
伏せられた彼の瞳が切なげで、考えなしに私は口を開いた。
◯◯「あの……」
ヒノト「……何?」
じっと彼の瞳が私を覗き込む…
◯◯「ヒノトさん……?」
ヒノト「ん……? おかしいかい? 俺、隣に誰かがいてくれないと寂しくて……」
そっと、ヒノトさんの綺麗な手が私の頬に触れる。
◯◯「!」
そのまま手の甲で頬を撫でられると、なぜだか胸がきゅっと苦しくなった。
(……どうしたのかな?)
(朗らかなヒノトさんの周りになら、自然と人が集まってきそうだけど……)
今までに見た彼の様々な姿を思い出す。
(寂しいから、一緒にいてほしくて優しくするのかな……)
その答えが知りたくて、じっと彼の瞳を見つめていると……
ヒノト「君は……驚くぐらい真っ直ぐに俺を見るんだね」
◯◯「え…ー」
ヒノト「嬉しいな。こんな風に俺を見てくれる子、初めてかも。 その目にもっと、俺を映して……?」
吐息がかかるかと思うほど、ヒノトさんの顔が間近に迫る。
◯◯「……っ」
思わず顔をそらすと、ヒノトさんの苦笑が耳に届いた。
ヒノト「ごめんね、君といると甘えたくなっちゃう。最近ずっと一人だったからかな。 情けない奴だって思うかい?」
◯◯「いえ…ー」
ヒノト「……でも、君だって一人は寂しいだろ?」
(一人が寂しい……?)
ヒノトさんの言葉を、胸の内で繰り返した後…ー。
◯◯「私も寂しくなる時はあります。でも……隣にいないからって、一人ってわけじゃないと思うんです」
ヒノト「……?」
私の頬から手を離したかと思うと、ヒノトさんは形のいい眉を片方だけ歪めた。
ヒノト「よくわからないね、隣にいなかったら一人だよ? 違うかい?」
◯◯「そうなんですが……」
上手く答えられないでいると、給仕係が部屋に料理を運んできた。
沈黙する空気に居心地の悪さを感じていた私はほっと息を吐く。
ヒノト「ごめん、くだらない話をしちゃったね……そんなことより今は楽しく食事をしようか?」
◯◯「そう……ですね、せっかくの料理が冷めてしまいますから」
彼の細かな気配りに感謝しつつ、私は箸を手に取る。
けれど目の前に並んだ料理の味よりも……
(ヒノトさんの感じている寂しさっていったい何なんだろう……?)
そんなふうに彼のことばかりが気になるのだった…ー。