柔らかな日差しの降り注ぐ城の入り口で…ー。
ヒノトさんは私の手の甲へキスを落として微笑んだ。
ヒノト「じゃあまずは城を案内しようか?」
◯◯「はい、お願いします」
ヒノト「うんうん、いい返事だね、俺、素直な女の子は大好きだよ」
そういってヒノトさんは私を城の中庭へと連れ出した。
椿の花が咲き乱れる風光明媚な庭の景色は、見惚れるほどに美しい。
◯◯「綺麗……」
ヒノト「ちょうど今が見頃だからね、自慢の中庭なんだよ。 花のある景色って、人の心を豊かにするからね」
◯◯「はい、本当に見てるだけで心が洗われていくようです」
ヒノト「ふふっ、それはよかったな。姫が笑ってくれると俺の心にも花が咲くみたいだ」
緩やかに口角を上げて、ヒノトさんが見事な枝ぶりへ手を伸ばす。
ヒノト「ほら、香りもすごくいいんだよ」
彼に手招きされて桃色の花弁に花を近づければ、甘い香りが鼻孔をくすぐった。
ヒノト「今年は特に、庭師がいい仕事をしてくれたからね」
彼の視線が庭の端で草木の手入れをしている侍女へ向けられる。
ヒノト「ありがとう、君のおかげで花も喜んでいるみたいだ」
侍女「ありがとうございます……」
彼に笑いかけられた侍女が頬を染め、そそくさとその場を去って行く。
(ヒノトさんって柔らかそうな雰囲気通り、優しい人なんだな)
ヒノト「彼女は少し恥ずかしがり屋みたいだね」
口元を隠して彼がくすくすと笑う。
やがて彼に促されて、私は庭の中央にある長椅子へと腰を下ろした。
するとすぐさまヒノトさんは卓の上で肘をつき、私に流れるように視線を向けた。
ヒノト「さっそくだけど、君と二人きり……どうせなら俺は特別な時間を過ごしたいけれど……。 君はどうしたい?」
◯◯「ヒノトさんにお任せします。私には九曜のことがまだわからないので」
ヒノト「じゃあ少し一緒に歩こうか? 目的もなく会話でも楽しみながら。 今日は天気もいいしね?」
卓の上に置いていた私の手へ、彼が片肘をついたまま手を添える。
指の腹で薄い皮膚をなぞるように……
◯◯「あの……」
返事に困っていると、きりっとした顔立ちの女性がこちらへ近づいてきた。
女性は書類を胸元に抱えたまま私とヒノトさんの前で会釈する。
(この人は……?)
ヒノト「ああ、彼女は仕事をバリバリこなしてくれる俺の優秀な秘書官」
秘書官「お話中に失礼いたします」
秘書官の女性はヒノトさんの耳元へ小声で伝える。
秘書官「祈念の儀について、確認事項がございまして」
ヒノト「ああ、それならもうカノエに任せるよ。晦日も過ぎたのだしね……」
秘書官「もう……ヒノト様! そういうわけにはいきません」
ヒノト「えー……うーん、わかったよ」
残念そうに目を伏せてヒノトさんは立ち上がった。
ヒノト「招待しておきながらごめん……ちょっと席を外すね。 戻ってきたら、一緒に昼食を取ろうよ。待っていてくれるかな?」
◯◯「……はい」
ヒノト「よかった! じゃあまた後でね」
秘書官「いい加減な約束は、姫様にご迷惑をかけますよ」
ヒノト「いいじゃないの、可愛い女の子には優しくするものさ?」
ため息を吐く秘書官さんを見てヒノトさんが肩を竦める。
(秘書官って言ってたけど、二人は親しいのかな?)
親密な距離感に、私は二人の関係が少しだけ気になったのだった…-。