奏の月を目前にした、こよみの国・九曜…ー。
数日ぶりに足を運んだ九曜の街は、どこか懐かしさを感じさせる落ち着いた街並みだった。
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ヒノト「また今度、改めて君の時間をちょうだい、俺と君との約束ね?」
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(ヒノトさん、あんなことを言ってたけど、お城にいるのかな?)
目覚めた時に見せた、彼の柔らかな笑顔が自然と頭の中に浮かぶ。
知らぬ間に胸を弾ませながら、私は九曜の城へと向かったのだった。
城の入口へ訪れると、私の姿を見て、背の高い男の人がこちらへと駆けてきた。
(あれは……)
ヒノト「待っていたよ、姫。わざわざ来てもらってありがとう。 本当は俺の方から会いに行くべきだと思ったんだけど……」
◯◯「こちらこそお招きくださってありがとうございます」
細められた瞳が、春の陽射しのように私の心を照らす。
彼の長い指先が私の手をすくうように持ち上げた。
ヒノト「うん、初めて会った時と変わらない、素敵な笑顔だね」
◯◯「……っ」
(今、胸がドキって鳴って……)
にっこりと笑う彼からそっと目をそらして、感じた気持ちを表す言葉を探す。
するとそんな私を見て、ヒノトさんは困ったように眉尻を下げた。
ヒノト「ごめんね、助けてもらった時はゆっくりもてなすこともできなかったから……。 しばらくはこの九曜でゆっくり羽を休めていくといいよ」
◯◯「そんな、気を使っていただかなくても大丈夫です」
ヒノト「ううん、だってそうでもしないと、俺の気が済まないよ。 それに……君のこと、個人的にも気になってたからね」
◯◯「えっ」
ヒノトさんは私の手の甲へ、唇を落とした。
微かに立てられた口づけの音に、また胸が弾む。
ヒノト「……ね?」
彼の目がまぶしそうに私を見つめる……
(なんだかさっきからドキドキしてばかり……)
ヒノト「じゃあまずは城を案内しようか?」
そう言って彼は流麗な仕草で私の腰元へと腕を伸ばしたのだった…ー。