月最終話 全て

真琴「君が、こいつらの代わりに僕の生きる理由になってくれるのなら。 僕は復讐を止めてもいいよ」

それから・・・・

私は、真琴君の部屋に連れ帰られていた。

(体が、動かない・・・・)

蜘蛛と蝶が閉じ込められたガラス箱の側の椅子に、私は座っていた。

張り巡らされた蜘蛛の巣で、その主が獲物を求めるようにうごめいている。

真琴「ねぇ、○○。僕のこと、好き?」

真琴君の甘えるような声が、私の耳に響く。

○○「・・・・」

(頭が、ぼんやりする・・・・)

真琴君の力で体の自由が利かないためなのか、意識が朦朧とする。

真琴「○○・・・・聞いてる?」

○○「真琴、君・・・・」

何を言っていいかわからず、彼の名前を呼ぶことしかできずにいると・・・・

真琴「・・・・愛して、くれないの? なら・・・・」

真琴君は机に置いてあったナイフを手に取り、自分の首にあてがう。

○○「やめて・・・・!お願い・・・・!」

真琴「・・・・くくっ!あははは!かわいい顔!」

けたたましい笑い声が、部屋中に響き渡る。

真琴「もっともっと、僕のために苦しんでよ!」

○○「・・・・っ」

笑いが収まると、真琴君は今度は懇願するような瞳で私に近づいてくる。

真琴「復讐だけが・・・・あいつらを殺すことだけが、僕の生きる理由だったんだよ。 でも○○は・・・・僕の生きる理由になってくれるって言ったよね。 僕ね、嬉しかったんだよ。 だから・・・・僕の前から、いなくならないでね?」

潤んだ瞳が、ぼんやりとした私を映し出していた。

ゆっくりと、自分が頷くのが見える。

(違う・・・・違うの・・・・)

彼の瞳の中の私は、やがてにっこりと笑みを浮かべる。

真琴「うん、いい笑顔だ」

彼は満足そうに微笑んで・・・・

突然、虫籠の中の蝶をいっせいにガラス箱の中に放った。

真琴「僕にはもう君がいるから・・・・こいつらは必要ない」

自由を喜び羽ばたいた蝶達は、次々に蜘蛛の巣へと誘われていった。

○○「・・・・っ!」

その後の光景が頭をよぎり、目を伏せてしまう。

真琴「やっぱり君のその苦痛に歪む顔が・・・・一番ぞくぞくする」

彼は私に歩み寄り、横から触れてしまいそうなほど近くに顔を寄せる。

真琴「これからは、それだけを楽しみに生きるよ」

真琴君の囁きが、吐息と共に私の耳を侵す。

○○「・・・・」

何も言えずにいると、真琴君は突然私をゆっくりと抱きしめた。

スチル(ネタバレ注意)

真琴「君が・・・・好きだよ。 ずっと僕の傍にいて、僕を愛してよ。 そうでなければ、また復讐をしないといけない・・・・。 父さんと母さんの代わりに僕をかわいがってくれた、あの人達に・・・・」

深い悲しみが、彼の瞳を覆う。

真琴「ね・・・・○○? 僕、○○がいないと、死んじゃうよ・・・・」

(きっと、本当に・・・・)

自分がいなければ、真琴君は死んでしまうのだろう。

ぼんやりとそう考えていると・・・・

真琴君が、手にしたナイフで私のブラウスのボタンを切り離していく。

○○「や・・・・っ」

拒む言葉とは裏腹に、私の体はぴくりとも動かない。

真琴「君は僕の全てになったんだよ・・・・」

真琴君の手が、裂かれた服の合間から胸元に差し込まれていく。

真琴「君の全ては、僕のものなんだよ・・・・」

○○「・・・・っ!」

真琴「抵抗してる・・・・?そう、そうじゃないとね・・・・」

○○「真琴君・・・・やめて・・・・」

私の瞳から、涙が一筋こぼれ落ちる。

すると・・・・ー。

真琴「・・・・っ」

ほんの一瞬、彼の瞳が揺れた。

○○「真琴・・・君・・・・」

真琴「・・・・そっか」

彼は、そっと私の頬を伝う涙をぬぐう。

真琴「やめた。こういうのは、力を使っても面白くない」

やがて真琴君が手を私から離すと、ふっと体に自由が戻った。

○○「あっ・・・・」

体が突然に戻った感覚に驚き、バランスを崩してしまう。

真琴「危ないよ」

真琴君が、ふわりと私を抱きとめてくれた。

真琴「怪我したら駄目だよ、○○。君を傷つけていいのは、僕だけだから。 これからも僕の傍にいて・・・・僕を楽しませてね」

(これから・・・・どうなるんだろう)

真琴君の腕に抱かれながら、私はこれからのことを思う。

願わくば、真琴君の闇が少しでも早く光に照らされ、明るいものとなりますように・・・・

ぼんやりとする頭の中で、そんなことを考えるしか、今の私にはできなかった・・・・ー。

 

 

おわり

 

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