真琴「・・・・母さんも、小さい頃よくこうして手をつないでくれたな。 ・・・・温かい」
その後・・・・ー。
真琴君を独りにできずに、私は彼の家に一緒に戻ってきてしまっていた。
真琴「・・・・疲れた。寝る」
そう言って真琴君は、ベッドにもぐり込む。
真琴「ねえ。 君は、利用されたってわかったのに、なんでまだここにいるの」
○○「真琴君を、独りにしたくないから・・・・」
真琴「・・・・。 ああ・・・・そうか」
しばらく押し黙った後、真琴君がうわごとのようにつぶやいた。
真琴「君・・・・僕のこと・・・・」
○○「真琴君・・・・?」
真琴「・・・・」
真琴君はやがて、静かに寝息を立て始める。
(あどけない寝顔・・・・)
真琴君の頬に、そっと手を触れる。
眠りに落ちた彼の顔は、とても穏やかだった・・・・ー。
・・・・
・・・・・・
(・・・・あれ)
(私・・・・あのまま眠り込んで・・・・)
真琴「おはよう、○○」
○○「・・・・?」
ゆっくりと目を開けると、真琴君が私の顔を覗き込んでいる。
○○「あ・・・・真琴君・・・・!」
座っていた椅子から、慌てて立ち上がる。
真琴「あははっ!目の下、クマできてるよ」
屈託なく笑う彼に、ほっと胸を撫で下ろした。
○○「真琴君・・・・よかった、少し落ち着いた?」
真琴「落ち着いたって、何が?」
○○「何がって・・・・」
(とても悲しそうだったから・・・・)
なぜだかそれを言葉にすることがためらわれて、私は口をつぐんだ。
真琴「・・・・そんな顔しないでよ、○○」
真琴君はそう言って、不意に私の手を取り・・・・
○○「・・・・!!」
手の甲にキスを落とした。
○○「ま・・・・真琴君・・・・!?」
うろたえる私を見て、彼は満足そうに笑う。
真琴「こんなので照れてるの?かっわいー!」
真琴君はくすくすと笑いながら、今度は私をじっと眺めている。
真琴「もっと、もっと○○の照れたところ見たい」
悪戯を思いついた子どものように楽しそうに、私の手を取る。
○○「ど・・・・どうしたの?」
(何が、どうなってるの・・・・?)
私は、瞳を何度もまばたかせる。
真琴「どうしたって・・・・。 ○○は、僕と一緒にいたいんだよね? せっかくなら楽しく過ごしたいでしょ?」
○○「えっ・・・・」
真琴「違うの?だって昨日言ってたじゃない」
ー----
真琴「君は、利用されたってわかったのに、なんでまだここにいるの」
○○「真琴君を、独りにしたくないから・・・・」
ー----
(確かに、言ったけど・・・・)
真琴「君、僕のことが好きみたいだから僕も愛してあげることにしたんだ」
○○「え・・・・?」
真琴「嬉しいでしょ、あははっ!」
真琴君は、この上なく楽しそうな笑い声をあげる。
(私が、真琴君を、好き・・・・?)
唐突に投げられた言葉に困惑し、そっと首を傾げる。
真琴「やっぱいいね、君のその顔」
真琴君はそう言って、細い腕で私を抱き上げた。
○○「ま、真琴君・・・・!」
その力強さに驚き、自分の顔が赤く染まっていくことを感じる。
真琴「○○の困った顔見てるの、すっごく楽しい♪」
真琴君が、私の顔をすごく近くから覗き込んでくる。
恥ずかしさに思わず顔をそらすと、彼は私をベッドにふわりと降ろした。
真琴「駄目だよ・・・・ちゃんと顔を見せて?」
愛おしそうに私の頬に両手を添える真琴君の瞳を見つめていると、体が動かなくなる。
真琴「僕は今、力は使ってないよ?」
真琴君が意地悪そうに目を細める。
真琴「何だろうね・・・・復讐だけが生きがいだったのに。 君といることが、なんだか楽しいんだ」
そう言って真琴君は、私の首筋に指を這わせる。
○○「・・・・っ!」
真琴「あはははっ・・・・!」
ぴくりと肩を跳ねさせた私を見て、彼は無邪気な笑い声をあげる。
真琴「君がいる間は・・・・復讐のことはちょっと忘れちゃおうかな♪ ねえ、○○、僕を抱きしめてよ」
○○「えっ・・・・」
真琴「はーやーくー!」
断ることができず、おずおずと彼の顔を私の胸に抱き寄せる。
真琴「うん、あったかい。 この温かさがあるなら、僕は生きていけるかも」
(真琴君・・・・)
愛しさがこみ上げて、私は彼の頭を撫でていた。
真琴「安心して、君は僕が守るから」
○○「・・・・」
(優しい瞳・・・・)
部屋の隅に置かれたガラス箱と虫籠が目に入る。
(でも、真琴くんの冷たい瞳が頭から離れない・・・・)
おずおずと彼の瞳を覗き込む。
すると彼は、蕩けそうに優しく微笑みかけてくれた。
(本当は、優しい人だって信じたい・・・・)
(もし、私といることで、こうして笑ってくれるなら・・・・)
真琴「どうしたの?○○」
真琴君は、心配そうに私の手を握る。
○○「真琴君、蝶、外に逃がしてあげよう・・・・?」
真琴「えーっ!何で?僕のとっておきのお楽しみなのに・・・・」
子どものようにすねた声を出す。
○○「楽しいこと、一緒にしよう?たくさん・・・・。 私、真琴君の傍にいるから・・・・」
真琴「・・・・。 約束・・・・?」
彼の声が氷のように冷たくなる。
恐ろしさを飲みこんで、その声に頷き返すと・・・・
真琴「・・・・わかった」
彼はそう言って、ガラス箱の蓋を開け、虫籠を取り出す。
美しい蝶達が、ひらひらと外へ飛び立った。
真琴「これでいい?」
蝶が舞う部屋の中で、真琴君が囁く。
真琴「約束だよ・・・・○○」
真琴君は、冷たい瞳で私を見上げている。
その頬にそっと触れると・・・・
真琴「ずっとずっと、愛してあげる」
真琴君は、にっこりと微笑んで、そう囁いた。
この天使のような笑顔の真琴君でいつもいられるように・・・・
そのために、彼の傍にいようと、私は心に誓う。
(ずっとずっと・・・・)
ふとガラス箱に目をやると、蜘蛛の巣にかかった何羽かの蝶が目に入った。
(出られ、なかったの・・・・?)
そして蜘蛛がゆっくりと、その美しい蝶に近づいていくのだった・・・・ー。
おわり