第3話 囚われの蝶

真琴「あっははは!無様だね。 本当に、何度やられたらわかるの?学習しないなあ・・・・。 今日は気分がいいから見逃してあげるけど、今度は・・・・」

(真琴君の、あの声が頭から離れない・・・・)

真琴君の家は物が少なく、部屋には冷たい空気が満ちていた。

○○「・・・・」

黙りこんだままでいる真琴君の横顔を、何度か盗み見る。

真琴「ああ、ごめんね!」

やがて身を固くしている私を気遣うように、真琴君が声をかけてくれた。

真琴「気になるよね。うーん、何て言ったらいいかな・・・・。 大統領制に移行する時に、いろいろあってさ。 あんまり僕ら王族をよく思わない奴らもまだいるみたいで。 で、さっき襲ってきた奴らは大統領の側近なんだけど、僕ら王族を狙ってるんだ」

○○「え・・・・!?」

真琴「それだけ」

何でもない、というような軽い口調で真琴君が説明してくれる。

○○「ああやっていつも、狙われてるの?」

真琴「平気だよ。僕には力があるから!」

(力・・・・?)

襲いかかってきた男達が、突然地面に倒れ込んだことを思い出す。

真琴「・・・・目が合った相手はね、僕の思い通りになるんだ」

○○「・・・・超能力?」

真琴「うーん、そんな感じかな」

くすくすと笑いながら、真琴君は確かな答えをくれなかった。

真琴君は部屋の隅に置いてある、四角いケージのようなものに歩み寄っていく。

真琴「ただいま、お客様が来たよ!」

すると・・・・

○○「あ・・・・」

茶と白の毛が混じった愛らしいハムスターが一匹、とことことケージから出てきた。

○○「ハムスター?かわいい!」

真琴「ハムスター?この子はジャンっていう名前だよ」

真琴君がケージに指を寄せると、ジャンはその指に鼻を寄せた。

真琴「お前はほんとにかわいいねー!」

ジャンを手に乗せて、真琴君が笑う。

その笑顔からは、さっきの冷たさはもう消えていて、私はほっと胸を撫で下ろした。

真琴「僕、荷物を置いてくるね。ジャンと一緒にちょっと待ってて」

頷くと、真琴君はにっこりと微笑んで、ジャンを私の手に乗せて部屋から出て行った。

(気のせい・・・・だったと思いたい・・・・)

ふと、膝に微かなくすぐったさを感じる。

○○「どうしたの、ジャン?」

ジャンが私の膝によじ上り、怯えたように後ろ足で立ち上がる。

(なんだろう・・・・?)

ジャンがじっと見つめている方向に目をやると・・・・ー。

○○「・・・・!!」

声にならない悲鳴が上がる。

(これ・・・・!)

部屋の隅に置かれた大きなガラス箱の中に、蜘蛛の巣がびっしりと幾重にも張り巡らされている。

さらにその中には、美しい虫籠が置かれていた。

(蝶・・・・?)

虫籠の中に、青紫色の羽を持つ美しい蝶が何羽も閉じ込められていた。

(これは・・・・何・・・・)

巣の主が、その蝶は自分の獲物だと言っているようにうごめいている。

真琴「何してるの?」

急な声に、心臓が止まりそうになる。

振り返ると、真琴君が微笑みを携えながら立っていた。

○○「・・・・」

声がのどに張り付き、何も言うことができない。

真琴君は、くすくすと笑いながら虫籠に近づいた。

○○「これは・・・・?」

何とか声を振り絞り、真琴君に尋ねる。

真琴「すごいでしょ!僕の秘密のお楽しみ」

○○「お楽しみ・・・・?」

真琴君は屈託のない笑顔でそう言って、ガラス箱の蓋を開けると、虫籠から蝶を一羽解放した。

解放された蝶は、自由を喜ぶかのように美しく舞うけれど・・・・

(・・・・!)

ガラスの壁に阻まれて、蜘蛛の巣に簡単に捕らえられてしまう。

そして巣の主がすぐに蝶に向かい・・・・ー。

○○「・・・・っ!!」

真琴「あははっ!何で見ないの?いいとこなのに」

思わず目をそらした私を、真琴君が嘲笑する。

○○「どうして・・・・こんなこと・・・・」

美しい青紫色の羽根が、白い蜘蛛の糸で絡められ、その形と色を失っていく。

真琴「生きようと必死にもがく姿がさ、最高だと思わない? その姿に僕が満足したら・・・・助けてあげたりもするよ」

真琴君の口から、信じられない言葉が続く。

真琴「○○は・・・・どんな顔して苦しむのかな?」

真琴君が目を細めると、身震いすらできないほどに体中が凍りついていった・・・・ー。

 

 

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