真夜中に部屋にやってきた○○は、俺に臆することなく言い放った…―。
○○「こんなに、お互いがお互いのことを思い遣っているのに…―」
ポルックス「……っ」
○○の言葉が、俺の脳みそを大きく揺らす。
耳障りな音が、頭の中で響いている気がする。
ポルックス「やめろ……それ以上、言うな」
(それ以上、言ったら……)
○○「え……っ?」
俺の視界の端に映り込む○○の顔が、歪んで見える。
それを振り切るようにして、俺は叫んだ。
ポルックス「わかってるんだ……!」
○○「ポルックスさん?」
○○が俺の名前を呼んだ、その時…―。
○○「……」
(……っ!)
俺の頬に、彼女の指がそっと添えられた。
(あ……)
その指先が濡れているのを見て、初めて自分が泣いていることに気づく。
ポルックス「……○○……」
(触れられた頬が熱い)
(なのに、なんでこんなに優しいんだ)
ポルックス「誰かに……こんなふうに触られたのは……初めてだ」
○○「……どうして泣いているんですか?」
涙が、気持ちと一緒にとめどなく溢れ出していく。
ポルックス「……わからない。本当は怖かったのかもしれない」
○○「怖い……?」
(ああ、そうか……)
○○の言葉で、自分の気持ちが理解できた。
ポルックス「俺はいつかは用済みになる宿命だ……アイツが成長して強くなれば……。 きっと俺は、カストルに吸収され消えてしまう……本当はそれがずっと怖かった」
恐怖が滲み出しているのか、俺の声は震えていた。
(こんな感情、自分でも気づかなかった……)
ポルックス「……お前が来てから、アイツの心も少しずつ変わってきている。 さっきだって、俺を止めようとしやがった」
(アイツが、こんなに強くなるなんて……)
(そうしたら、俺は……俺の存在は必要なくなってしまう)
○○「ポルックスさん……」
○○の瞳が切なげに揺れる。
その視線から逃れるように、俺は顔を伏せた。
ポルックス「俺はもうすぐ消えてしまうんだ……。 お前を遠ざけようとしたのも……カストルのためのフリして、本当は消えることが怖かったんだ」
○○「……っ」
顔を伏せた俺の前で、○○が動いた気配がしたかと思うと…―。
俺は、○○に抱きしめられていた。
ポルックス「○○……?」
○○「私は……カストル王子もあなたも両方いて、一人なんだと思います。 あなたは存在する。そしてカストルさんもあなたを必要としている」
(っ……!)
思わず顔を上げると、俺のすぐ前に○○の微笑む顔があった。
○○「だから、あなたが消えることはないと思います」
ポルックス「俺は……存在してもいいのか?」
(お前は、認めてくれるのか?)
(俺の存在を…―)
○○「はい、当たり前です。だから……怖がらないでください」
俺の瞳から、また一筋涙が流れる。
涙腺が壊れてしまったのかもしれないと思うほどの、大きな雫が頬を伝った。
ポルックス「ありがとう……」
今までにない優しさをはらんだ俺の声が、部屋に響く。
○○が不思議そうにまつ毛を震わせている姿を見ると、自分でも驚くほど、俺は柔らかな笑みをこぼしていた。
(○○……)
彼女の瞳に、俺だけが映っている。
月明かりに照らされた部屋の中で、俺はずっとこのまま時が止まればいいのにと願った…―。
おわり