柔らかな日差しが部屋に差し込む中…ー。
カストル「ポルックスの存在を知ってから、僕は彼にずっと憧れていたんだよ」
カストルさんは、真剣な表情で話し始めた。
カストル「彼は僕の持たないものを全て持っているからね。僕も彼のように強くなりたかった。けど……。 僕はこの通り、弱い人間だから。 ここ数日、頻繁にポルックスが現れて……僕はね、このまま僕が消えればいいと思ってた」
◯◯「カストルさん……! ?」
カストル「きっと周りだってすぐにわかる。僕よりポルックスの方が国を背負うに相応しいって。 強い意志と力を持つ彼なら……この国も安泰なんだろうと」
◯◯「カストルさん……」
何と言っていいかわからずに、名前を呼ぶことしかできずにいると、
カストルさんの綺麗な手が、私の髪をふわりと掬った。
カストル「理想や重荷ばかりをポルックスに押し付けて、自分はなんの努力もしないで逃げてしまおうと思ってた。 彼が腹を立てるのも無理はないよね」
カストルさんはそう言って寂しそうに笑うけど、どこか違和感が残る。
(ポルックスさんが怒っている……?)
◯◯「カストルさん、それは違います!」
カストル「◯◯?」
◯◯「ポルックスさんは、カストルさんのことを心配していました」
私の言葉に、カストルさんの瞳がわずかに見開かれる。
カストル「……ポルックスが?」
◯◯「はい。ポルックスさんは……カストルさんのことを誰より思い遣っています」
ーーーーー
ポルックス「カストルの負担になることはやめろ」
ーーーーー
私は、あの時のことをカストルさんに話した。
◯◯「あの時、私がポルックスさんに感じた不思議な感覚は……。 他の誰でもない、カストルさんの優しさだったんです」
カストル「……」
カストル王子は瞳を震わせて、自らの胸元に手を重ねた。
カストル「ポルックス……。 そうか……彼もちゃんと僕の一部だったんだね。そんなこと考えもしてなかった」
王子は静かに瞳を伏せて、やがてゆっくりと窓辺に視線を向けた。
柔らかな朝の光が、カストル王子の輝く瞳をより一層明るいものにする。
カストル「いつか……彼とひとつになれる日が迎えられるのかな」
◯◯「はい、きっと」
(お互いがお互いのことを、誰よりも思い遣っているから)
カストル「いや、必ず迎えないと。でないと、アイツに謝れない」
ぽつりとつぶやいて、カストル王子は窓を開く。
部屋に穏やかな風が入り込み、カストルさんの横を吹き抜ける。
その時……
◯◯「……っ!」
私は息を呑んだ。
(……なんて凛々しい顔)
不意に私を抱きしめたカストル王子の微笑みに見たもの……
それはポルックス王子にも勝る、夜空に輝く一等星と見まごうばかりの力強い眼差しだった。
カストル「ありがとう、◯◯。僕に大切なことを気付かせてくれて……」
◯◯「カ、カストル……さん……」
カストル「ただ、カストルと、そう呼んで欲しい……」
◯◯「……カストル……」
肩を抱くカストルさんの腕はしっかりとしていて、胸がいっぱいになる。
優しい人だと思っていた彼の中にも、しっかりとポルックスさんが持つ強さは息づいている。
カストル「今、僕の中にこれまでになくポルックスの存在を感じるよ。 彼の魂も、僕の心の中に確かに存在している……」
その声はこれまでと変わらず穏やかなのに、不思議なほどに強い響きがあった。
カストル「◯◯……君にお願いがある。 僕達……僕は必ず、◯◯に胸を張って再会できるような存在になるよ。 だから、その時は……もう一度この国に訪れてくれないかい?」
◯◯「……はい。必ず」
王子の心に生まれた新たな光に、私は胸の中で頷いた…一。
おわり。