その翌日…ー。
カストルさんは調子が戻らないのか、お昼を過ぎてもまだ眠り続けたままだった。
(大丈夫かな……)
私が部屋を訪れると、部屋の前で侍女を従えた王妃様とすれ違った。
王妃「◯◯様……カストルの様子を見に来てくださったのですか?」
◯◯「はい。カストル王子の具合は、いかがでしょうか?」
王妃「まだ眠っていますが、もうまもなく目覚めると思います」
◯◯「……あの」
王妃様にお願いして、王子の部屋に入れてもらった。
王妃「◯◯様……本当に、カストルを助けてくださって、ありがとうございます。 カストルは、将来この国の王位を継ぐ身。眠りに落ちた折は、国中がひどく混乱しました……」
◯◯「いえ。力になれてよかったです」
王妃様の瞳に涙が滲むのを見て、力ストルさんへの深い想いが伝わってくる。
王妃「それでは……私は公務がありますので、これで」
◯◯「はい」
王妃様はまだ心配そうな顔をしていたけれど、やがて侍女の方と一緒に部屋を出ていかれた。
残されたのは、眠ったままのカストルさんと私、ただふたり……
ーーーーー
カストル「……大丈夫です。目覚めたばかりだからでしょうか……。 ◯◯様、驚かせて申し訳ありません」
ーーーーー
昨晩のカストルさんの青い顔を思い出し、不安が募る。
(心配だな……)
かすかに胸が上下する様子に、そっと椅子から腰を浮かせ、彼の顔を覗き込むと…ー。
◯◯「っ!?」
ふいに、腕を強く引き込まれた。
いきなりのことに驚き、顔を上げると……
鋭く鈍い光をたたえ瞳が、私を射抜いていた。
(この瞳は……)
ーーーーー
◯◯「カストル王子! 大丈夫ですか!?」
カストル「……」
ーーーーー
(あの時の瞳と同じ……!?)
まるで心の奥まで射抜かれてしまいそうな強さに、呼吸が苦しくなる。
◯◯「カ……カストルさん?」
??「……違う。俺はカストルじゃない。お前か? 余計なことをしてくれたのは……」
◯◯「……!?」
(声色も口調も、カストルさんと違う……! ?)
豹変した王子に、私は…一。
◯◯「……だ、誰なんですか?」
??「……」
自分はカストルではないという青年は、じっと私を見つめた。
その瞳には、力強くきらめく意志の強さがあるように思えた。
ポルックス「俺は……ポルックスだ」
◯◯「ポルックス……?」
ポルックスと名乗った彼は、挑戦的な笑みを浮かべた。
私の腕を離した手で、今度はゆっくりと、品定めをするように私の顎を持ち上げる。
ポルックス「何が起こったかわかんないって顔してんな……ハハッ、いい顔だ。 余計なことしやがって……そんなに俺に関わりたいなら……。 そうだ、ここで俺の女にしてやろうか?」
◯◯「な……っ!」
彼の顔が眼前に迫ってくるけれど、金縛りにあったように体が動かず、ぎゅっと目を閉じることしかできない。
(怖い……でも、動けない! )
彼の唇が、私の唇に今にも触れそうになったその時…ー。
医師「カストル王子? お目覚めですか?」
部屋の扉がノックされ、カストルさんの主治医らしき方が現れた。
ポルックス「……ふん、せっかくいいところだったってのに」
医師は、悪態をつくカストルさん……ポルックスさんを見ると、顔色をさっと変えた。
医師「! まさかお前は…ー」
ポルックス「よう、久しぶりだなじじい」
医師「ポルックス、やはり消えてなかったのか……! !」
◯◯「!?」
(ポルックスさんを、知ってる?)
医師「こ……こうはしていられない、この事実を城の皆に伝えなければ!」
医師は慌てふためきながら、部屋から駆け去っていった。
◯◯「あ、ま、待って…ー」
カストル「おっと」
医師の後を追おうとした私を、ポルックスさんが後ろから抱きしめるようにして引き留める。
ポルックス「せっかく邪魔者がいなくなったんだ。さっきの続きをしようぜ?」
ポルックスさんが意地悪く笑いながら、指を私の首筋に滑らせる。
◯◯「やめて……っ!」
ポルックス「ハハッ!!」
(一体……何がどうなってるの! ?)
周りで起こっていることも、自分の置かれている状況も理解できずに、私はただ戸惑うことしかできなかった…ー。