ついに迎えた、祭りの日…―。
皆と力を合わせ結果、俺達は無事に演舞を終えることができた。
だが…―。
カノエ「ん……?ここは……」
頬に冬の冷たい夜風を感じながら、そっと目を開ける。
すると……
○○「あ……カノエさん……」
カノエ「○○……?」
(……えっ!?)
こちらを見下ろす彼女に目を見開いた後、俺は急いで体を起こす。
カノエ「あ、何だ!?俺は、一体どうしてお前の……」
(お前の膝で、寝て……)
頭の後ろに残る柔らかな余韻に、頬が驚くほど熱くなってしまう。
○○「カノエさん、酔ってしまったみたいで。 その……色々お話したんですけど、覚えてないですか?」
カノエ「話……?」
(確か演舞を終えた後、○○と新年を祝って)
(それから、皆に酒を注がれて……)
まだ少し酔いが残った頭で、寝てしまう前のことを必死に思い返す。
すると、少しずつ記憶が蘇ってきて…―。
ー----
○○「!!」
カノエ「……こうしてる方が……楽だ。 ふーっ、落ち着くな……」
ー----
カノエ「……思い出した。 俺は、自らお前の膝に頭を乗せて……」
(酔っていたとはいえ、何てことを……!)
カノエ「悪い。迷惑をかけたな」
情けなさと恥ずかしさから、思わずうつむいて目を覆った。
○○「大丈夫です。私は嫌じゃなかったですし……。 むしろ、いつもと違うカノエさんが見れて嬉しかったですから」
カノエ「嬉しい?」
顔を上げると、こちらに笑顔を向ける○○と目が合う。
○○「はい。カノエさん、なんだか子どもみたいでとっても可愛かったです」
カノエ「っ!」
(可愛い、だと?俺が……?)
頬が再び熱くなってしまい、俺はそれを誤魔化すように口を開く。
カノエ「……そんなことを言われたのは初めてだ。 人にはいつも怖がられてばかりだからな。 今日も親睦を深められればと思い、飲めもしない酒を飲んで……」
○○「えっ?お酒、駄目だったんですか?」
カノエ「ああ。本来は下戸だ」
○○「そうだったんですね……気分は悪くないですか?」
○○が心配そうに俺の顔を覗き込む。
そんな彼女に、愛おしさが溢れてきて……
カノエ「大丈夫だ。まだ少しだけ酒が残っているが、意識もはっきりしてるし……。……さっきお前に話したことも、しっかりと覚えている」
○○「え……?」
○○を安心させるように笑うと、彼女は不思議そうに首を傾げた。
カノエ「今回の祭りが成功したのは、お前のおかげだと言ったことも。 これからも傍にいろと言ったことも……。 どちらも酔った勢いの出任せじゃない。 偽りのない……俺の本心だ」
○○「カノエさん……」
(それに……)
俺は一つ大きく息を吸い込み、ドキドキと騒ぐ胸の鼓動を落ち着かせる。
カノエ「それに何より、俺は伝えるのが下手だから言い訳に聞こえるかもしれないが。 好きな女以外に、あんなことは絶対にしない」
○○「あんなこと……?」
カノエ「……膝枕のことだ」
○○「あ……。 ……はい、大丈夫です。カノエさんの気持ちは伝わっていますから」
カノエ「そうか。しつこいようだが、本当に怒っていないか?」
○○「もちろんです。だって……」
そこまで口にした次の瞬間、○○はどこか悪戯っぽい笑みを浮かべる。
そうして、俺を真っ直ぐに見つめると……
○○「そんなもの……好きな人なら、いいに決まってますから」
カノエ「えっ?それは……」
ー----
○○「ずっと傍にいてもいいんですか?」
カノエ「そんなもの……いいに決まってる」
ー----
(……一本取られたな)
○○にからかわれた俺は、気恥ずかしさから思わず目をそらしてしまう。
だが、小さな咳払いをした後、彼女を真っ直ぐに見つめ…―。
カノエ「改めて言う。これからも傍にいろ。 俺も一生、お前の傍を離れない。 お前を、絶対に離さない……」
○○の華奢な体をきつく抱きしめると、彼女はそれに応えるように俺の背に腕を回す。
(ああ……いい年になりそうだ)
(きっと今年は、俺にとって忘れられない一年になるだろうな)
遠くでは、新年を祝う人々の声が響いている。
そんな中、俺達はお互いの温もりを確かめ合いながら、幸せな一年の始まりを噛みしめていたのだった…―。
おわり。