チームのメンバーがぎくしゃくしたまま、とうとう祭りの前日になった…―。
黄昏時を告げる橙色の陽射しが、森の隙間をぬって静かに降り注いでいる。
そんな中、今日はカノエさんがチームの仲間を呼び出して、円陣を組んでいた。
カノエ「皆に聞いて欲しいことがあって、集まってもらった」
傍で一緒に聞きながら、心の中で手を合わせた。
カノエ「俺はあまり口がうまくないし、普段は気持ちを言葉にすることない……」
そこまで言うと、カノエさんは言葉を詰まらせてしまう。
カノエ「……」
(カノエさん……)
私は隣に立つカノエさんだけに聞こえるように、そっと囁きかけた。
○○「カノエさん……思ってるままに話したら、皆わかってくれますよ」
カノエ「○○……」
しばらく、カノエさんの瞳は戸惑うように揺れていたけれど……
カノエ「……ありがとう」
ぽつりとそうつぶやいて、彼は皆に毅然と向き直った。
カノエ「……聞いてくれ、お前たちにはいろいろと誤解させてしまったこともあると思う」
男1「誤解ってどんなことですか?陣形のことですか?」
カノエ「そうだ。あの陣形は安易に決めたものじゃない。舞いの事情を計算して、並び方を変えたものだ」
男1「事情ってなんですか?納得できる理由を説明してください!」
カノエ「実は……今回から、舞台の設計が変わることになったんだ」
男たち「え…―」
カノエ「新しい演舞台は、上から見た時に正方形ではなくて、奥行きの狭いものになる。 だから陣形をいつものように組むと不都合がでてしまう。 舞台の形は他の演者たちの都合もあるから変えられない。俺達が陣形を変えて対応することにした」
カノエさんの視線が、争っていた二人に交互に向けられる。
カノエ「特に……喧嘩になった二人には難しい動きで負担をかけることになった。 だが、二人なら可能だと思った。理由を言わなかったのは悪かった」
男1「どうして言ってくれなかったんです?最初から知っていれば…―」
カノエ「新しい舞台を意識してしまうと、陣形に乱れが生まれると思ったんだ。 なら、今まで慣れ親しんだ陣形を少し変えるという意識で臨んだ方が出来が良くなると、そう考えた」
そこまで言って、カノエさんは顔をうつむかせる。
カノエ「だが……結果こうなってしまぅた。俺の独りよがりだった。本当にすまない。 新しい舞台で、一番見栄えのいい陣形で挑戦させてくれ」
カノエさんは深く、皆に向かって頭を下げた。
カノエ「……皆で祭りを盛り上げていきたい。 時間がないなんて思ってない。お前らとなら、きっと間に合わせられる!」
一同 「……」
事の真相を打ち明け、熱心に語りかけるカノエさんに、いつの間にか皆が惹きつけられていた。
その様子を見ていると……
○○「私も……見たいです」
私の口から、言葉が自然とこぼれ出てしまう。
カノエ「○○?」
○○「森で毎日、皆さんが懸命に練習する姿を見ていて……カノエさんの指示でさらに素敵になって。 きっと完成したらすごい演舞になるんだろうなって、楽しみで仕方なかったんです……あ」
素直な気持ちを伝えた後、私に視線が集まっていることに気づいた。
カノエ「……」
するとカノエさんが、私の肩に優しく手を乗せた。
カノエ「どうだ、皆……俺も是が非でも完成させたいと思っている」
男1「……そういうことなら、やりますよ」
男2「俺もやりますよ。カノエ様が俺達を信じてくれるなら、やりとげてみせます」
カノエ「お前ら……」
男1「やってやろうぜ!」
カノエ「よし!明日の祭りは、とことん楽しもう!」
カノエさんの大きな声で、一気に皆の気持ちが一つになる。
男達「おおー!!」
高らかな雄たけびが森の中心に響きわたっていった。
声に驚いた鳥が、遠くで悲鳴のような鳴き声をあげて飛びだっていく。
(もう大丈夫みたい……よかった)
肩に乗せられたままのカノエさんの手が、やけに熱く感じる。
ドキドキと鳴る胸を抑えながら、私は祭りの本番に思いを馳せた…―。