そして今夜、祭りの本番を迎え…―。
太鼓が鳴り響き、激しいリズムが空気を震わせる。
夜空を焦がすように燃え上がる松明の炎が舞台の左右に置かれ、その真ん中で人々が躍動を繰り返していた。
カノエ「はっ!それそれそれそれそれっ!」
カノエさんの掛け声が、チームの動きをまとめていく。
ついこの前までバラバラの動きをしていたチームの皆は、呼吸のタイミングも同じだ。
(ぎりぎりだったのに、皆の動きが一つになって、まるで生き物みたい……)
光る汗を散らしながら舞い踊るカノエさんの演舞姿が格好よくて、見とれてしまった。
翻る着物の裾の動きも見逃さないくらいに目を奪われていると、あっという間に終盤を迎え……
カノエ「はあっ!!」
ぴたっと時間が止まったかのように皆の動きが揃った。
(やった!完璧だった)
思わず立ち上がって拍手をすると、それに続くように観客もいっせいに立ち上がり拍手を送る。
その拍手喝采は、カノエさん達が十数回のお辞儀を終えても鳴り止まなかった。
カノエ「……」
舞台袖にはける途中、一瞬だけカノエさんの視線が私を射抜いた。
○○「……っ!」
見られただけなのに、その場に縫い止められたかのように動けなくなる。
(ドキドキして……)
嬉しさと感動と、そしてカノエさんの視線……
いろんな感情が溢れ、私の胸は苦しいくらいに高鳴っていた。
男の人「今年の演舞は格別ですね」
女の人「本当に、鬼気迫る迫力がありましたね」
(私だけじゃない……)
気づけば、観光客もこの国の人も皆等しく感動のざわめきを起こしていた。
(本当に良かった)
しばし余韻に浸るように席に座っていると、ぽんと肩を叩かれた。
カノエ「○○」
○○「カノエさん……!」
いつの間にやって来たのか、まだ頬を紅潮させたカノエさんが立っていた。
カノエ「こっち来いよ」
カノエさんが私の手を引く。
少し汗ばんだ彼の手から、心地よい熱が伝わってきた…―。
…
……
演舞台から離れた小高い場所へ出ると、ようやくカノエさんが足を止めて振り向く。
カノエ「どうだった?」
○○「本当に素敵でした。とてもかっこよかったです!」
頬を上気させながら興奮気味に伝えると……
カノエ「そうか」
不意に、カノエさんの逞しい腕が伸びてきて……
(え……?)
次の瞬間には、まだ熱を発散しているような火照った体に抱きすくめられていた。
カノエ「悪い。熱が冷めてなくて……こうしたくて仕方ない」
驚く私を見下ろすカノエさんの顔は切なげで、胸がどきっと跳ねた。
カノエ「……ありがとう。 ○○がいなければ成功しなかった」
○○「わ、私はお礼を言われるようなことは…―」
彼の熱い腕の中で、首を小さく横に振るけれど……
カノエ「初めて気づいた……応援してくれるヤツがいるってのは、すごく力になるんだ」
(そう思ってくれてたなんて……嬉しい)
カノエ「それに、皆ともう一度まとまるきっかけをくれたのもお前だった。 何て言っていいか、わからないが……」
情熱を込めるように、抱擁がさらに深くなる。
辺りは静寂に包まれていて、さきほどまでの祭りの喧騒が嘘のように感じた。
そしてそのまま、彼の腕の中でしばらく時間が経った時…―。
カノエ「好きだ」
○○「えっ」
突然ストレートに告白されて、目をしばたたかせる。
カノエ「演舞が終わったら言おうと思っていた。 言葉にするのは上手くない方だが……この気持ちは、ちゃんと伝えたい」
カノエさんの瞳は少し熱を帯びたように潤んでいて、微かな揺らぎも見えた。
○○「……っ」
カノエ「もう一度言う……好きだ」
そして、肩に手が置かれたと思うと、いきなり顔が近づいてきて、激しく唇を奪われる。
顔をそらすことができないほど強く唇を塞がれ、胸が跳ねあがった。
(えっ……キス……?)
次の瞬間、カノエさんの背中越しに私の瞳が捉えたのは……
夜空にきらきらと広がる大輪の花火だ。
(綺麗……)
○○「カノエさん……」
息継ぎの間に名前を呼ぶと、カノエさんが柔らかく微笑む。
カノエ「返事を聞かせてくれるか?……いや……聞かなくてもわかるが」
そう言うと、再び唇が合わせられ、遅れてきた爆発音に押されるようにして、キスはより深くなる。
微かに香るカノエさんの汗の匂いは、私に森での彼の姿を思い出させた。
(いつの間にか私も……好きになっていたんだ)
告白とキスを受け入れるように、ゆっくりと目を閉じる。
いつの間にか新年を迎えたことにも気づかず、私達はただお互いの熱を感じ合っていた…―。
おわり